私は、膠原病患者である。膠原病というのは、それ自体が病名ではなく、細胞の結合組織に異常が出る病気の総称だそうである。だから、出た異常の箇所によって正式な病名が違う。そんなことは、自分が病気になるまで知らなかった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%A0%E5%8E%9F%E7%97%85


私のは、シェーグレン症候群と言う。同業者ならすぐ話が通じるが、縁のない人にはどうも覚えにくい病名のようだ。ドライアイ・ドライマウスが主たる症状である。もう一つ合併を疑われてるのなんか、「サルが恋してどうなった?」ばりの名称である。サルコイドーシスと言う。身体の色々なところに腫瘍が出来る病気で、10万人に7~8人しかいないらしい。おどろおどろしい名前の割にはあまり性質の悪いものではなく、命の遣り取りはしないですみそうだ。最近になって更に疑われているのが重症筋無力症。読んで字の如く。昔は致死率が高かったそうだが、今は心配しすぎることはないそうだ。従って、面倒なので大抵病名は言わず膠原病だと言ってすませる。もちろん、「病気なの」だけですませられる時はそうする。


膠原病と言うと、日傘をさして儚げに佇んでいる、白百合のような美女のイメージではないか。実際、男女比率は圧倒的に女性上位である。こんなんで女性上位でも有難くも何ともないが、膠原病科は婦人科かとまごうばかりだ。男性諸君、医者になるなら膠原病医を目指したまえ。感染の危険もあまりないだろうし、患者は女ばかりだ。しかも、白百合のような美女だ。臨床現場によっては保証できないが、少なくとも私は美女だ。


日記の中でもそのイメージを保とうと努力しているのだが…、如何せん、病状が許してくれない。


☆「身体がだるくて疲れやすい」これはいい。儚げである。間違っても、ねじり鉢巻で御輿を担いだり、長距離トラックの運ちゃんをしているイメージはないだろう。


☆「微熱が出て関節痛がある」これもいい。華奢なか細い身体をやっと動かしている感じではないか。夕方、微熱が出るなどというのは、病弱美人の定番である。


☆「指先に力が入らない」これだっていい。ペットボトルが開けられなかったりして、実際にはちと不自由だが、いかにも病人ぽい。


☆「ドライアイ」これもまだいい。「目が乾いてキズがついているので、コンタクトは入れられないの」と伏し目がちに答えれば絵になる。その実は、コンタクト入れたまま居眠りすると大変なことになるからだが、言わなければ判らない。年がら年中、目薬を点しているのも「ドライアイだから」と言えば、何とかコンセンサスを得られる。


☆「ドライマウス(口腔乾燥症)」これが、イメージを失墜させるそもそもの元凶である。呼んで字の如く、口が渇くのである。唾液が出ないのが原因だ。都合、すさまじい勢いで水分摂取をする。飲めば出る。自然の摂理だ。「ちょっと、お手洗いに」の回数が異様に増えて来る。膠原病の儚げな美女は、トイレになど立ってはいけない。が、行きたい。


いや、薬もあるのだ。人口唾液サリベート。が、これが…効果は一瞬、味は一生。えらい不味いのだ。「うん、まあ、そうね」と明智君は言い、「…そういう方は沢山いらっしゃいます」と金田一君は言った。医者も認める不味さである。他に、口腔内に塗る保湿剤もある。オーラルバランスとかバイオエクストラとか…。こちらの方は、確かに効果がある。だが、甘くてくどい味だ。私は、入れ歯の裏に塗っている(乾燥すると歯茎が痛むのだ)が、口の中全体に塗りたいとは…あまり思わない。それに、高いし。


先走って入れ歯の話が出てしまったが、唾液が出ないと虫歯になりやすいのだ。つい4ヶ月前一通りの治療が終わったのに、もう歯医者に通っている。歯石が貯まる隙もなかった。現在、喪失歯は4.5本。歯周病になんぞなっていられない。そんなBABAくさい疾患は私には用がないのだ。と言うか、歯周病になる暇もなく歯がなくなっているというのが真実か。


唾液が出ないと、食べ物も食べにくい。噛んでも上手くまとまらないので喉の方に送られないのだ。当然、飲み込み辛い。この冬、空気が乾燥したせいもあるだろう。何度か喉に詰まって大騒ぎになった。危うく、救急車を呼ばれる所だったのだ。「最悪の場合は掃除機で吸って下さい」と言われ、掃除機を買い換えてしまった。それまでのは吸い込みが悪くなっていたのだ。


で、その唾液を無理無理出させる薬がある。エボザックと言う。唾液は出るが、ぶっ壊れた唾液腺を復活させる効果がある訳ではないのだ。その上、この薬、副作用のオンパレードだ。服用禁忌も多い。実は、私は虹彩炎があるので服用禁忌である。「虹彩炎があるから眼科の先生と相談してから…」と私が言った時、口腔外科医の明智君は非常に驚いた表情をした。眼症状のあるシェーグレン患者は私しかいないと言っていたから無理もない。翌週、またその話になった時、彼は「うん、そうだね」と答えた。患者につつかれて確認したのだろう。可愛いもんである。が、膠原病医も「そうなの?」と聞き返した。眼科医も「そうですか?」と言った。


結局、低量に抑えて飲んでいる。副作用は必ず出るとは限らないし、それでないと唾液が出ないのだ。特に、明智君が処方してくれた時点では食事も満足に摂れていなかった。ベネフィットとリスクを天秤にかけたら、明らかにベネフィットの方が重かった。


書けば書くほど、儚げな美女のイメージとはかけ離れていくこの現実。もう、如何ともしがたいのだ。


尚、この文章はネタです。間違って迷い込んで読んでしまい、気分を害された特に同じ病気の方がいらしたら、心からお詫び致します。私は、幸いなことに軽症なのです。だから、笑い飛ばすこともできるのです。