当時、私の仕事は技能者として日々生産活動に勤しんでいた。
時には無理な姿勢で無理な作業を行うことも多かった。当然肩や腰に負荷がかかり、湿布や塗り薬を使用する。そしてまた作業する。
緩やかに右肩下がりで症状は悪化していく。週末の休みで何とか回復するが、週明けからはまた身体を酷使していった。これを長い時は数ヶ月繰り返していた。無論私だけでなく、周囲には似た症状の人も多く在籍していた。
腰の疲労が抜けないある春の週末。私は車のタイヤ交換を行うため、ベランダに保管していたタイヤを持って部屋の中を抜け、玄関に運ぼうとしていた。 早くタイヤ交換を済ませたい気持ちで、左右それぞれにタイヤ1本づつ持ち上げながら移動し、玄関を抜けた。瞬間、
『ムニュウ』
腰の辺りからそんな感覚が伝わった。何だかわからないが、ヤバイ感覚だというのはは直感でわかった。急遽その場でタイヤを降ろし、両手を腰にあてグルグルと腰を回してみる。ヤバイ感覚が出た箇所に痛みは無いが、何とも言えない感覚。何とも言えないが、健康体では絶対感じないであろう感覚。そう、これまでに出会ったとこのない初めての感覚だった。
翌日は月曜日。ヤバイ感覚は続いていたが痛みが無いため、いつも通りに支度を整えて車で会社へ向かった。会社の駐車場に着いてエンジンを切る。ドアを開けて右足を大地に着ける。
『ビィイイイン』
(何っ⁉︎)
慌てて車を降り、もう1度右足で大地を踏む。
『ビィイイイン』
(⁉︎)
もう1度、
『ビィイイイン』
(⁉︎)
『ビィイイイン』
『ビィイイイン』
『ビィイイイン』
何度足を着けても右足の足刀部(小指から踵へ外側を通るライン)に長時間の正座から解放された後の痺れに似た感覚が現れた。
『ビィイイイン、ビィイイイン、ビィイイイン』
痺れは治らないが痛みが無いため、そのまま職場へ向かった。
職場に着き、始業前に上司にひと言身体に起きていることを報告した。この時所属していた部署は、デスクワーク中心の部署だったため、「今日は様子を見ながら作業してみましょう」との上司の答え。
椅子に座りPCを睨める。が、意識は右足。靴を脱いで足裏の様々な部位で床をタッチする。親指、その他4本同時、踵、足の部『ビィイイイン』、オフィスチェアのタイヤ接続部に土踏まず周囲を乗せてみる。足刀部に近づくと痺れが発生しているのがわかった。
終業して『ビィイイインビィイイイン』いわせながら帰路に着いた。
自宅に戻って家事をするにも『ビィイイイン』がつきまとう。今日の私はMr.ビーンと名乗っても良いんじゃないかと錯覚した。
寝支度を済ませたベッドの上、天井を見上げる。『ムニュウ』から『ビィイイイン』へたった1日で変化(悪化)したのだ。明日以降は何が起こるのだろうと、頭の中は不安に駆られていた。