2001年夫婦世界旅行のつづきです。マドリッド4日目。今日も今日とて猛暑です。





part188 郵便局員が言うセリフ?





要約: マドリッドのソルの近くの郵便局は、郵便局というよりも宮殿であった。が、郵便局員はやはりどこかラテン系の軽い乗りで、耳を疑う一言をのたまうのであった。さすがスペイン! と唸らざるを得ない。















風の強い朝であった。日陰に入ると肌寒いくらいなのだが、ひとたび日向(ひなた)に出るや、強烈な陽射しに肌はじりじりと音を立てて焼ける。きな臭いほどの汗の匂いが我が身から立ち上がるのが分かる。





昨日の夜、旅の日程を修正し始めたら収拾が着かなくなってしまった。ここまできたらアフリカにだって是非足を延ばしてみたいのだ。マジョルカ島にだって渡ってみたいのだ。アンダルシアだってふらふら歩いてみたいのだ。しかしいかんせん時間がない。あ~、どこを削るべきか。お宝の山を目の前にして手が出せずにいる山賊のように、髪を掻き毟らんばかりに悩んだ。





しかし、朝の3時になっても今後の日程が決まらない。徹夜は体に悪いので、取りあえず眠ることにしたのだが、相も変らぬ熱帯夜で寝るに寝られず。(夫はどんなに蒸し暑くともぐーぐー眠れる特技の持ち主だ。大したものだ。)





ドラキュラの棺桶が開くように鈍くきしるベッドの上で、そろりそろりと寝返りを打ちつつ、何とか寝ようとしていると、明け方4時にはいつものように爆音を立てて、通りを清掃車が行き来し始めた。グィーン、ブッシュワーッッ、シュワッ、シャワッ、シャワッ、ザゴゴゴゴ……。





石畳みの路地に掃除夫達の掛け声が反響する。激しい散水の音。石畳みをこするブラシの硬い音。(夫はそんな爆音をものともせずにすやすやお休みだ。大したものだ。) 





シュワッ、シャワッ、シャワッ、シュブブブブ……。ぐごごごご、んがっ、しゅぷぷぷぷぷ~…… 散水車の清掃音と、鼻が詰まってちょっと苦しそうな夫の暢気な寝息とが、部屋の外から中から私を攻め立てる。





漸く清掃車が過ぎ去ったと思うと、上の階の住人が、何を始めたのか、ギーゴーギーゴーズズズズズ……。





旅人が荷造りでもしているのであろうか。きっと朝早い出発で仕方ないのだろうと、しばらくはじっと我慢していた。が、30分立っても一向重たい物を引きずる摩擦音や、鋸のような音は止まず。だーっ! うるさいっ! 何しとるんじゃっ?





蒸し暑さは一向弱まらず。もう雑音に耐えることにも疲れ、眠ることは諦めてベッドから起き出し、水シャワーを浴びてみた。アジアでは、恐ろしいほどの蒸し暑さの中でもホットシャワーを浴びていたのに、ヨーロッパで水シャワーが気持ちいいとは……。





多少涼しくなったので、少しでも眠ろうと再びベッドに横になる。そぉっと。





……3時間弱ほど眠れた。しかし、マドリッドに入ってから連日の熱帯夜で、毎晩3時間も眠れていない。睡眠不足の連続だ。さすがに体がだるい。





今日はトレドへ日帰りで出かける予定だったが、夫も寝不足なので予定変更。遠出は避けて、近場のプラド美術館 Museo del Pradoへ出かけることにした。





まずは昨日と同じ小さなカフェで軽く朝食を済ませ、どんよりと睡眠不足の雁首を揃えて、目指すはプラダ美術館。





我々が拠点にしているソル駅Solからは地下鉄2駅分ほどの距離なので、散歩がてら歩いて行くことにした。美術館へ行く途中、郵便局にも寄って行こう。





ソルからアルカラ通りを東にちょいと行くと、シベーレス広場Plaza de la Cibelesに出る。まずはそこにある郵便局に寄ったのだが、この郵便局、まるで王宮のようであった。ガイドブックによると、その建物は 「Palacio de Comunicaciones」 と記されている。「コニュニケーション宮殿」?





ローマ神殿のように太く大きな柱に支えられた白亜の城の如き建物を入って行くと、やはり間違いなく郵便局であった。奥にずらりと窓口が並んでいる。全体が吹き抜けのように巨大な柱に支えられていて、郵便局にしておくには無駄な空間にも思えてくる。





切手売り場の窓口で絵葉書用の切手を数枚頼んだ。すると、係りの人は私が頼んだ枚数よりも一枚余分に切手を出してきて、その料金を私に請求してきた。





頼んだ数と違うと言うと、その係員はすぐ自分の間違いに気づいたのだが、すぐに計算し直さず、その余分な一枚を指先でつまんでしばし眺め、おもむろに私にこう言った。「これもついでに買わない?」





普通、郵便局員がそういうこと言うか? なんともすっとぼけたお茶目な郵便局員である。さすがスペインと言うべきか……。





「ノ、ノNo,no!余分な切手は要らんよ~。」(切手は余っても無駄なだけなので、いつもきっちり必要な数だけ買うようにしていた。)と、あっさり断ると、その郵便局員はちょいと肩をすくめ、すぐに諦めて切手を引っ込めてくれた。しつこくないところがさすがヨーロッパと言うべきか……。





スペイン人って、愉快だ。





つづく


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