全文は『シャンソンマガジン』をご覧ください。その中で取り上げた楽曲のurlをここに入れます。どうぞお聞きになってください。

 

 戦争とシャンソン

ルノー、バルバラそしてアダモ

 フランスはさまざまな反戦歌を世に送り出してきました。今回は3つの歌を取り上げました。

 2001年アメリカで起きた同時多発テロの直後には、ルノーとアクセル・レッドの「マンハッタン・カブール Manhattan Kaboul」(paroles de Renaud et musique de Jean-Pierre Bucolo 2002)が発表され、空前の大ヒットと なりました。戦火に巻き込まれ殺された一般市民を代弁して語る、という設定の歌です。

 ただ、なぜかいつも上位に挙がっていたオフィシャルクリップがどこを探しても見つかりません。「名もない人たちに代わって歌う」ということを意識して、なかなかよくできたビデオだと思っていたのですが。

 ここに取り上げたのは、どなたかが後で作られたビデオです。

 

 


       Les dieux, les religions
       Les guerres de civilisation
       Les armes, les drapeaux, les patries, les nations
       F’ront toujours de nous de la chair à canon

 

神々をめぐり、宗教をめぐり

文明がぶつかり合い

武器をとり、国旗をかかげ、

祖国のため、国家の名において戦うとき

いつも砲火の生贄となるのは、

私たちなのだ

 

 そして今、特に報道番組を見るたび脳裏に蘇るのは、バルバラのこの歌の、この部分です。「ペルランパンパン Perlimpinpin」(paroles et musique de Barbara 1972)。改めてこの歌詞の重みを感じます。バルバラの叫びが聞こえてくるような気がします。

 


   Car un enfant qui pleure,
   Qu'il soit de n'importe où,
   Est un enfant qui pleure,
   Car un enfant qui meurt
   Au bout de vos fusils
   Est un enfant qui meurt.
   Que c'est abominable d'avoir à choisir
   Entre deux innocences !
   Que c'est abominable d'avoir pour ennemis
   Les rires de l'enfance !

 

だって、泣いている子供は

どこから来た子でも

泣いている子供でしょう?

だって、あなた方に銃を向けられ

死んでゆく子供は、

死んでゆく子供なのよ

なんとおぞましいことか

無垢な子供たちに差をつけるのは

何とおぞましいことか

子供時代の笑い声を敵とみなすのは

 

この歌は、2015年にフランスで起きた同時多発テロの犠牲者を悼む式典でも、ナタリー・ドゥセによって歌われました(ピアノはアレクサンドル・タロー)。
 

 

 そして日本でもファンの多い「インシャラー」です。サルヴァトール・アダモは1967年、イスラエルに共感し「インシャラー Inch'Allahparoles et musique de Salvatore Adamo 1966)を発表しました。しかし彼はその後、世界情勢を鑑み何度も歌詞を書き替えてきたのです。今の彼は決して最初の歌詞では歌いません。

 

 彼は「自分は無知であった。不用意に書いてしまった。」と最初の歌詞を悔やんでいました。しかし歌詞を変える度に、イスラエル側からもアラブ側からも非難され、批判に晒され続けました。アラブ諸国からは憎まれ入国禁止になり、アラブへの共感を示す歌詞にすればイスラエルからは「歌詞のリサイクルか」と嗤われました。そして彼は何度かの変更ののち、2003年「我が痛ましきオリエント Mon douloureux Orient」を表し、両陣営の和解と融和、そして中近東の平和を願ったのです。

 

 アダモはインタビューの中で以下のように語ります。「歌で世界を変えようなどと自惚れているのではない。ただ,歌が人の耳に届くことにより,それが何かを考えるよすがとなってくれれば,と願うだけである。我々(歌手に)できるのはそれだけである。」と述べています。以上の歌詞の変遷の歴史については:

  高岡優希「アダモと『インシャラー』歌詞改訂の歴史」

  『シャンソン研究会研究誌』第2号、2010年を参照しました。

 

 「歌が人の耳に届くことにより,それが何かを考えるよすがとなってくれれば。。。」アダモの言葉と共に、そしてルノー、バルバラとともに世界の平和を祈ります。