最終話 本文

「翻訳検証するのに、なんで歌うの?」

この質問から、この物語は始まった。


最初は、少しだけ腹が立った。

いや、今でも少しだけ腹は立っている。

だって、こっちは真面目に検証しているんだ。

BPM84。

再生位置0:16.2。

原曲キー。

VirtualDJ。

Voicemeeter。

Whisper。

DeepL。

Google。

OpenAI。

全部、繋げて。

全部、試して。

何百回も。

何千回も。

同じ場所を歌ってきた。


それなのに。

「なんで歌うの?」

と聞かれる。

だから、ずっと思っていた。

バーカ。

と。

もちろん、娘にしか言えないから言わないけど。


でも、最近は少しだけ分かる。

たぶん、その人たちは知らないんだ。

今まで、私は聞く側だった。

英語を聞く。

翻訳する。

意味を理解する。

それで終わりだった。


でも、今回は違う。

私は、手紙を書く側になった。


F15を押す。

私の声が旅に出る。

F20を押す。

日本語の私と、英語の私が並んで歩く。

Googleは手紙を書く。

DeepLは少し丁寧に書く。

OpenAIは少しだけ考え込む。

玄野武宏は、黙って歌う。

そして私は。

今日も、0:16.2に針を合わせる。


昔、ばあちゃんが言った。

「ドレミで聞こえるんだろ?」

「会話する時、不便だろね。」

私は答えた。

「ばあちゃん、それは違う。」

今なら思う。

あの時のばあちゃんは、理解したわけじゃない。

理解しようとしてくれたんだ。

「そうだったのかい。」

その一言だけで、十分だった。


私は「可愛い」が分からない。

誰かは「ズレてる」が分からない。

私は「ズンズンチャッチャチャカ」が許せない。

誰かは「見れば分かるじゃん」と言う。

それでいい。

世界は、同じようには見えていない。


私は絶対音感なんて持っていない。

仕事は通信業だ。

でも。

パケットが欠ければ気になる。

順番が違えば気になる。

遅延があれば気になる。

だから。

「だった」の「っ」がなくなる。

ことも気になってしまう。


何百回も歌った。

何千回も歌った。

そして、気づいた。

私は翻訳を作っていたんじゃない。

私は。

感動の形を変えていた。

んだと思う。


原曲の「涙」は、こう歌う。

目に一杯にため込んだ涙と引き替えに

でも、私はこう歌う。

胸にため込んだ気持ちと引き換え

誰が正しいとかじゃない。

私は、私の手紙を書いていただけだ。


玄野武宏に勝てるか?

勝てるわけがない。

あいつは疲れない。

音程も外さない。

文句も言わない。

でも。

涙は流せない。

私は流せる。

最近は、歳のせいかすぐ泣く。

それでいい。

人間だから。


翻訳家の皆さん。

今回もありがとうございました。

Googleさん。

DeepLさん。

OpenAIさん。

VOICEVOX 玄野武宏。

そして。

何度も私の歌を聞かされた皆さん。

ありがとうございました。


最後に、一つだけ言わせてください。

オーバーフロー、多用すんなよ。

溢れるのは。

データじゃない。


心なんだよ。


今日も、VirtualDJを起動する。

BPM84。

再生位置0:16.2。

原曲キー。

そして。

思うまま泣いて笑う君は――

私は、歌う。

翻訳のためじゃない。

検証のためでもない。

伝えるためだ。


「翻訳検証するのに、なんで歌うの?」

そんなもの、決まっている。

伝える側だからだよ。


UnoPoteto_TRANS_Zero


次回作予告

「UnoPoteto_TRANS_Zero 2|感動の形を変える」

オーバーフローは、まだ終わらない。 🥔🎤📨✨