酔っ払いフルコースもいよいよメインにはいる。
酒飲みの私の長所は、酔っ払うと上機嫌になることだ。
短所は、しばしば記憶がジャンプすることだ。
会社の飲み会のあとの出来事だった。
その日は、仲の良い同僚たちと飲んでいた。
いつもより少し飲みすぎてしまったが、同僚たちとは笑顔で別れ、終電前には電車に乗った。
そこで、記憶は飛んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥」
ふと意識が戻ると、私の息は大きく乱れていた。
あたりは真っ暗だった。
意識はもどってきているが、まだかなり酔っ払っていて、状況がつかめない。
徐々に視界がはっきりし、私が「植木鉢を運んでいること」が分かった。
そして、私は自分のマンションのすぐそばまで来ていることも分かった。
なぜかぜぇぜぇ息をきらせながら、巨大な植木鉢を運んでいた。
何が起きているのか訳も分からなかったが、とりあえず植木鉢をそのままマンションの目の前まで運んだ。
そして私は気がついた。
植木鉢しか、持っていないことに。
酔いが一気に覚めた。
今私の手元にあるのは、植木鉢と腕時計だけだ。
それ以外には何もない。
ポケットを探したが、小銭ひとつ入っていない。
時計に目をやると、深夜1時をまわっていた。
深夜1時すぎに、スーツを着た男がはぁはぁ言いながら植木鉢を運んでいる‥‥完全に不審者だ。
何はともあれ、とにかくバッグを探すことが最優先だった。植木鉢を持ち帰った理由は後回しだ。
私は、家の周りを走り周り、血眼でバッグを探した。
15分程走りまわったが、バッグは見つからなかった。
私は完全に気が動転していた。
一旦落ち着こう。
私はマンション前に置いた植木鉢の元へ一旦帰った。
そして考えた。
マンションから駅までは、徒歩10分以上かかる。
駅前は栄えており、帰り道にしばらく家はない。植木鉢があるとすれば、このマンションのご近所に違いない。
そもそも駅前から植木鉢を運んでいたら、どこかでお巡りさんに止められる。
さらに私は、記憶を失いながらもちゃんとマンションまでたどり着いている。いつも通り、帰って来れている。
ということは、いつもの帰り道、マンション付近の民家のどこかに、植木鉢が置いてあったであろう庭があり、バッグもそこにあるかもしれない。
そう踏んで、いつもの通勤経路のみを、くまなく探した。
すると、家からわずか徒歩1分、民家の花壇(草むらになっていたが)に、奇跡的にバッグを発見した。
さらに、その家の花壇の付近には、植木鉢がいくつも並んでいた。
私は安堵した。
点と点がつながった。
恐らく、現実はこうだ。
酔っ払ってふらふら歩いていた私は、躓いて民家の花壇付近に転んだ。そして、転んだ衝撃でバッグを放り投げてしまい、暗闇の中を探した。
そして、「あったあった」と、バッグの代わりに植木鉢を持ち帰ったのだ。
そう結論づけ、私はバッグを持ってマンションへ戻り、植木鉢を元の位置(であろう箇所)に戻した。
私は、無事に生還した。
その日以降、毎日通勤途中に、私がさらった植木鉢を見るようにしていたが、それからずっと植木鉢はその場所に留まっていた。
私の推理は間違っていなかったのだろう。
それにしても、いくら酔っ払っていたにせよ、バッグと植木鉢を間違えるなんてことがあるのだろうか?
いや、ネズミでも間違えやしない。
私は、記憶を失うと別人格が現れるのではないだろうか。
そしてそいつはきっとボケたのだ。
ある程度ボケたところで、私にタッチしたのだろう。
「ほら、ツッコめよ」
って。