私は昔から「かけっこ」が得意だった。

小学校から中学3年までの9年間、
運動会のかけっこで3位以下になったことがない。

ただ一度を除いて。

中学2年生の運動会でのことだった。

私はクラスで短距離走が1番早かったので、普通の徒競走ではなく、クラス選抜の100m走に出場した。

中学1年のときもそのクラス選抜に選ばれており、そのときは1位をとっていた。

今回も1位になれば、モテモテの学園生活が訪れるだろう。そう思っていたが、運の悪いことに、陸上部で最も走が早い男と同じ組になった。
1位はきつくても、せめて2位はとろう。そう心に決めて、私はスタートラインに立った。



「位置について、ヨーイ、パァアン!!!

合図とともに、私は最高のスタートを切った。

速い、我ながらめちゃくちゃ速い。
視界には誰も入っていない。俺が1位だ。

しかし、レースが後半に入ったあたりで、体が宙に浮いている感覚になった。おそらく、態勢を立てるのが早かったのだろう。

そして、陸上部NO1かどんどん追い上げてきて、あっさりと私を追い抜いた。

そして、そのままゴール。
私はあきらかに2位だったが、3位以降のメンバーは、ダントツビリの一人を除いて、かなり僅差だった。

ゴールテープを切った順に、先生が肩をたたいて順位をつけていくのだが、

「はい、1位!2位!3位!4位!5位!6位!‥あれ?…君は8位。」

レース後たった一人、私は、肩をたたかれなかった。

そして、一人残った私に気づいたその教師は、静かに私を7位のポジションへ案内した。

その教師は見逃していたのだ。

そりゃそうだ。ほぼ同時にゴールする8人の生徒に対して、一人の教師が順位付けをするのは、簡単なことではない。

だが、思春期まっさかりの生徒にとって、かけっこの順位は大事なことだ。しかもそれを唯一の誇りにしていた私にとっては、許しがたい話だ。

一緒にレースを走ったメンバーからも、「お前2位だったよね?」と言われた。
しかしながら、結局教師からの訂正はなく、私は、見事に7位の称号を獲得した。