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 今年、日曜大工で1×4の木材でリクライニング椅子を作ってみたのだけれど、意外に座り心地が悪くて白けてしまった。結局のところ低反発のマットを敷いたら具合が良くなったのだけれど、木材だけでもうちょっとマシなものは作れないものかと思って読んでみた。ところが、「どこが“科学”でんねん」という感じの内容。ほとんど人文書のような内容である。しかも後半では、いろんな椅子の説明みたいなのを書きながら、その椅子のイラストも写真も掲載されていないものがいくつかあって、ちょっとイラつく内容である。また、つり椅子やハンモック・チェアに関しては何ら言及されていない。2009年4月初版。

 

 

【椅子の良し悪し】
 落ち着く椅子の良し悪しの基本は、腰椎の付近で軽く支えられながら背筋の伸びる感じのもの、とされています。逆に、悪い椅子の基本は「猫背になる椅子」ということです。(p.5)
 ごもっとも。
 長時間利用していると、良し悪しの差は明白になる。

 

 

【スツールとチェアー】
 スツール(stool)というのは、座面のみの4本脚の小さな補助用の椅子のことで、英語では「chair」と区別されています。(p.8)
 背もたれ(背面)の有無で区別するらしいけれど、スツールという単語自体、今頃になって初めて知った!
 日本語にはそんな区分はないのだから、意外というか、知らなかったとしてもやむをえない単語である。
 ついでに、chair を辞書で引いてみたら、以下のようになっていた。
   sit in [on] a chair
   いすにかける(▼通例 in はひじ掛けいすに, on はひじなしのいすにかける場合)

 だったら、スツールの場合は、sit on a stool のみである。

 

 

【日本の椅子文化】
 日本に現存する最も古い椅子は、正倉院の「赤漆槻胡床」と呼ばれるものです。これは、四角形の座に直線の4本の脚と背もたれ、肘掛けがついたもので、京都御所・紫宸殿の御帳台にある椅子と同じものとされていますから、朝議(=天皇と位の高い貴族による朝廷の会議)の際に天皇が用いたものです。ちなみに、朝議に参加していた貴族はスツール形式の庄子(しょうじ)に座りました。
 一方、寺院では、曲ろくを儀式用として使用していました。曲ろくは現在でもお寺などでその名残を見ることができます。
 以来、1000年余り、日本での椅子の発展はありません。・・・中略・・・。極端な話、一般庶民の日本人の中には「椅子」という考えはほとんどなかったといえるのではないでしょうか。(p.23)
 畳の上で使う「座椅子」は、近代になって作られるようになったのだろうけれど、そもそも脚がないから、椅子という分類には入らないらしい。

 

 

【「かんせつ」という誤植】
 骨と骨は間接で繋がっており、その間にはクッションの役割をする椎間板があります。(p.33)
 チャンちゃん自身の既掲載の読書記録を読み返してみると、誤変換などがテンコモリ発見できるけれど、このような中高生向けの著作に典型的な立派な誤変換誤植を発見すると、ちょっと引いてしまう。

 

 

【シンクロナイズド・コンフォートシート】
 日本語に訳せは「連動安楽椅子」か?
 これは、座面と背もたれが連動してスライドするもので、リクライニング時に座面が動き、後方に沈む機能です。・・・中略・・・「最も快適な姿勢で身体を傾けていられるシート」とされています。(p.53)
 電車や飛行機や車の高級クラスには、この方式が採用されているものがある。

 

 

【針葉樹じゃなくて広葉樹?】
 椅子の場合、広葉樹と針葉樹とでは、ほとんど広葉樹が使われます。針葉樹は柔らかいものが多く、椅子の部材として組んだりしたら緩んでくるケースが多いためです。(p.70)
 低緯度地帯の成長の早い広葉樹より、高緯度地帯の成長の遅い針葉樹の方が柔らかいというのは、ちょっと信じがたい。本当だろうか? 著者の教養レベルを疑ってしまう。世界でよく知られている家具メーカーや家具デザイナーは、北欧の企業や人である場合が多いだろう。

 

 

【牛乳パックの椅子】
 意外といいとされるのは、牛乳パックの椅子です。軽いのはもちろんですが、予想以上に丈夫です。体重を支えるだけの強さも十分に持っています。(p.70)
 1ダース入りのペットボトル飲料を箱買いして、飲み終わったものを箱に納めておけば、軽量でしっかりした椅子(箱)になる。これなら何も作る必要はない。

 

 

【プリア】
 家具デザイナーのジャンカルロ・ビレッティも有名です。とくに彼の「プリア」という折り畳み椅子、各国のデザイン賞を受賞するとともに、1959年の発売以来500万脚以上作られました。(p.99)
 体育館などで用いられている、あのスチール製の折り畳み椅子のこと。これが「プリア」という名称だったことを初めて知った。
 プリンを知らない人はほとんどいないだろうけれど、プリアを知っている人もほとんどいないだろう。
 「プリ」は共通で、語尾は「ア」と「ン」。“かなの最初と最後”と覚えておけばいい。

 

 

【世界最大の椅子生産地】
 この地域は旧ユーゴスラビア(現スロベニア)との国境に近いウーディネ県というイタリア北部にあり、18の市町村からなっている約100キロ四方の地域です。そこに約1200社の椅子製造企業があり、約1400人が従事し、年間5000万脚以上の・・・中略・・・あらゆるジャンルの椅子を作っています。(p.100)
 1400人で1200社だから、ほとんどは自営個人企業ということになる。
 ところで、この地域が椅子の産地になったのは、
 当時この地域はマリア・テレサの支配するところで、教会を建設するためにこの一帯の木を切ることを許可したのです。(p.100)
 樹木が豊富だったから椅子の産地になったのだけけれど、この地域の地中海岸には、かの有名なベネチアがある。地中海の海運を支配したからこそ繁栄したベネチアである。マリア・テレサが許可したのは教会建設のためなどではなく、世界の富をかき集めるために必要な船の建造のためだったはずである。間伐材や切り落とされた枝などを有効利用すべく、椅子を作るようになったのだろう。

 

 

【カテドラルの語源】
 古代ギリシャの椅子の代表的なものとしては、・・・中略・・・女性の携帯用の椅子「クリスモス」でしょう。しかしこの椅子はその後、大いなる変遷を遂げます。
 まず、哲学者が議論をするために座る椅子となります。さらにローマ時代になると、名前が「カテドラ」になって、なんと司教が座る椅子になりました。そして、この椅子がある教会を「カテドラル(大聖堂)」というようになるのです。(p.129)
 クリスモスはどんな椅子なのかネットで調べたら「古代ギリシャの椅子の代表的なタイプのひとつで、反りのある脚や湾曲した背板などに特徴がある。座面は皮のひもで編んだ上に布張りのクッションを置く」とあった。カテドラは「クリスモスの背面も革張りにしたような椅子」なのだろう。
 カテドラルを辞書で引くと、「大聖堂」の他に「主教座聖堂」ともあるから、こっちが語源を表しているらしい。
 椅子というものは、西欧世界において権威の象徴として用いられてきたものであるから、カテドラルの語源はまさにそれを直接に表している。
 英語や世界史の先生がこういうことを教えてくれたら、生徒も教養が身についてその後の勉学の幅が広がるだろう。

 

 
<了>