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  『フラガール』 を観たことがあって、ファンドに関しても概要程度は知っておきたいと思ったから読んでみた。2007年10月初版。

 

 

【映画好きでも楽しいファンド本?】
 金融知識がない方でも理解できるように、 『フラガール』 を例にとって、具体的な数字やデータに基づき、映画ファンドの仕組みを分かりやすく説明している。映画業界の裏話なども随所にちりばめているので、ファンドには興味がないけれど、映画を観賞するのが好きだという方も楽しめる内容になっている。(p.4)
 前書きにはこんな風に書かれているけれど、映画好きな人が楽しめるのは、p.33までの第1章だけ。第2章以降には、ファンドに関する似たようなことが何度も何度も繰り返し記述されていた。ちょっとうざったい感じ。

 

 

【授賞式で泣いていたしずちゃん】
 日本アカデミー賞の授賞式では、南海キャンディーズのしずちゃんがボロボロと涙するシーンが印象的であった。(p.26)
 授賞式で静ちゃんが泣いてたと知って 「へぇ~」 と思うと同時に、「だったらボクシングに挑戦している今のしずちゃんは、相応しくないだろう」 と思ってしまった。
 撮影のために相当長時間を費やしてフラダンスの意味を学びつつ練習をしていたからこそ、涙ボロボロだったんだろうけれど、フラは 「愛」 を表現するためにこそ踊るものである。相手をなぐるボクシングのどこに 「愛」 があるのか? 女性らしい表現で 「愛」 を語るフラの練習をやり遂げることには意味がある。しかし、男性みたいに相手を殴り倒すための練習をやり遂げたところで・・・喜びはあるの? 「愛」 はあるの?
 多分しずちゃんには合ってない。止めちゃいなよ。

 

 

【別途協議】
 ここから先は、全部ファンドのこと。
 印税や成功報酬について、舞台的な金額や料率を決めないケースが多く見受けられる。特に、映画の業界関係者同士で締結される契約書には “別途協議する” と記載されていることが多い。
 私たちのような投資ファンドが、その点を理解せずに投資をすると痛い目に会うことになる。(p.58)
 口頭での合意は10%。契約書は “別途協議”。でもってヒットしたら30%に跳ね上がってしまうというような昔ながらの慣行が日本の映画業界にはあるとか。しかし、逆に、こけたら監督も手数料を低くするというムラ社会的なややましな面はあるけれど、匙加減が通用する可変の領域があると金融ビジネスは成り立たない。
 なら、キッチリした契約社会であるアメリカはどうかと言うと、分配の割合は決まっているけれど、それが利益ベースでははく売上ベースであり、収益の上がらない作品であったとしても、分配率に応じて俳優やプロデューサーが売上の1円目から先に持って行ってしまうのだという。そんな契約の仕方は、馬鹿げていると思うけれど、それがアメリカ映画業界の契約方式というなら、日米共にどっちもどっちである。

 

 

【両者を結び付ける「通訳者」】
 こんな状況であるなら、むしろ出資者側と製作者側を仲介するファンドが真っ当な意見を主張するようになれば、監督や俳優やプロデューサーの突出した貪欲は抑制されて適正な分配様式になって行くだろう。
 必ずしも折り合いの良くなかった金融とエンターテイメント。これを結び付ける人材・機能が今、求められていると言えよう。(p.163)
 リスクをコントロールする金融と、リターンを極大化させるコンテンツ。そして私のような映画ファンド・マネージャーは両者を結び付ける 「通訳者」 であると考えている。(p.172)

 

 

【シネカノン・ファンド1号】
 06年、映画製作・配給を行う独立系映画会社シネカノンが映画ファンドからの投資を受け入れることによって、45億円を超える資金調達を行った。この映画ファンドは、「シネカノン・ファンド1号」 という名前で06年4月から運用が開始されたが、運用対象作品に 『フラガール』 が含まれていたのだ。(p.65)
 シネカノン社が製作・配給するものと海外から買い付ける作品の合計約20タイトルの運用対象に対して、「シネカノン・ファンド1号」 が投資するという構図。ひとつの作品に対しての投資だと、余りにもハイリスクハイリターンなので、このような映画版ポートフォリオ型の投資になっている。
 そもそも映画ファンドは、不動産ファンドなどに比べて、ダウンサイド(下振れ)、アップサイド(上振れ)共に大きいものなので、20タイトルに分散してもミドルリスクミドルリターンなのだという。
 ヒットメーカーと言われる映画プロデューサーであっても、ヒットの 「打率」 は2割程度と言われている。 ・・・(中略)・・・ 。しかしながら、映画の場合には、ヒットした場合の上振れが大きいため、一つのヒットを打つと(勝利すると)、十分に他の引き分けや負け試合をカバーできる。「当たるとデカい」 のが映画ビジネスなのである。(p.101-102)
 フラガールの場合、コストは6億円に対し収益は12億円(p.36)と書かれている。単品で見れば実に200%のリターンだけれど、出資額45億円の対象となったのは20作品である。打率2割として、全体の4分の1の作品(フラガールを含めた5作品)までなら十分カバーできると言っているけど、シネカノン社製作・配給でフラガール級のヒット映画は他にないはず。残り15作品分まで含めて全体で利益が出ているのだろうか?
 「シネカノン・ファンド1号」 が実際にどの様な運用実績だったのかは全く書かれていない。

 

 

【シネコン・ビッグバンと日本の映画業界】
 60年代には7000スクリーンもあった映画館であるが、95年には1776スクリーンまで落ち込む。
 しかし逆転のきっかけになったのが、シネマコンプレックスの出現である。 ・・・(中略)・・・ 06年には、ついに全体で3000スクリーンを越えたのであるが、そのうち約2000スクリーン、つまり3分の2以上がシネコンという現状になっている。(p.141-142)
 しかしながら、02年から05年までの5年間で400スクリーン増えているけれど、観客動員数、興業収入共に、ほぼ横ばいだと書かれている。つまり1スクリーン当たりの業績は下がっている。
 人口比で日本の2倍のアメリカの興業収入は5倍になるという。ひとり当たりに換算すると2.5倍だけれど、アメリカの映画チケットは平均6ドルというから日本のほぼ半額。つまり、アメリカ人は日本人の5倍、映画館で観ていることになる。
 日本人は、そもそも内向きだし、アメリカ人みたいに 「デッカイことはいいことだ」 という気質はないし、地デジ化以降、大型液晶テレビが家庭に揃っただろうし、近頃はDVDレンタル屋がそこらじゅうにあるんだから、日本で映画館利用者が増える要因はほとんどないだろう。
 フラガールの場合、DVDの販売とレンタルの収益は4億円(p.36)とあるけれど、これは収益全体(12億)の3分の1に当たる。日本がこのままの経済状態なら、映画館に行くことなく最初からレンタルDVD鑑賞にしてしまう人が増えることだろう。日本の映画ファンドって本当に利益が出るんだろうか?

 

 

【海外の映画ファンドの騙しテクニック】
 興味深いことに、この種の 「騙そう」 としている海外映画ファンドにはいくつかの共通点がある。一つ目の特徴はファンド期間が異様に長いこと、二つ目は期待収益率が極端に高いこと。そして三つ目は 「リボルビング型」 になっていることが圧倒的に多いという点だ。(p.132-133)
 リボルビング型とは再投資型という意味。
 運用会社が取得する成功報酬が30%を超すような高いレベルにある一方で、「損失補填」条項に、「万が一、損失が出てしまった場合には、これから確実に上場する予定の未公開株を投資家の皆様に交付させていただきます」 といった怪しげな文言が紛れ込んでいたら要注意である。わたしなら間違っても絶対に使わない 「確実に上場する予定の未公開株」 という表現を使う時点で、まともなファンド運用者ではない、ほとんど最初から投資家にお金を返すつもりのないファンドなのである。(p.133)
 欲で頭が回らなくなっている人は、 「確実に上場する予定の未公開株で補填する」 という表現があるからこそ出資するんだろう。おめでた過ぎる。「略奪と踏み倒しは国際金融の常識」 であることをお忘れなく。
   《参照》   『お金の正体』 日下公人 (KKベストセラーズ)
           【「債権者は債務者より立場が弱い」という国際常識】

 

 

<了>