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 表紙の写真とタイトルが気になって読んでみた。大地に掘られた白馬が作成された理由を推察して書かれた古代の物語である。

 

 

【血の聖杯】
 ふたりの血を数滴ずつ、杯にこぼした。杯のなかには、9本のりんごの聖樹からもいだ実で作ったりんご酒が注がれていた。男と女を結びつけるのは、いつもりんご酒でなければならなかった。(p.81)
 血盟団とかいう言葉があるけれど、略奪経済の古代は、同盟の結束を強めるために、このような婚礼の儀式を行っていたのだろう。
 男女を結びつけるのは、なぜリンゴ酒でなければならないのだろう。おそらく、下記リンクにある理由だろう。
   《参照》   『バイキングと北欧神話』 武田龍夫 (明石書店)

             【リンゴ】

 

 

【取り引き】
 征服者となったアトレバテース族のクラドックは、被征服者のイケニ族のルブリンに丘の北の斜面を掘って、太陽の馬を描くことができるか尋ねた。それに対し、ルブリンはある条件を語った。
 「 ・・・(中略)・・・ 条件によっては、丘いっぱいに広がる太陽の馬を作ろう。その条件とは、馬が完成しそれが彼の希望通りの馬だった場合には、ここにいるわれわれイケニ族の生き残りに自由を与えてほしい。われわれはここを出て、どこかよその土地に行く。その地で馬を飼えるように、必要なだけの牡馬と子を産む雌馬を分けてほしい、そういう条件だ」 (p.138)
 自らの部族を守るための取引条件として、白馬が作られることになった。
 ただし、それを作る被征服者が、純粋に征服者の意向を表現するためだけに作るというのは考えづらい。ルブリンは同じ部族の仲間に対して、以下のように説明している。

 

 

【太陽の馬、月の馬、馬の女神エポナ】
「でも兄上が作るのは、敵の馬ではありませんか」
「そうだ、アトレバテース族の太陽の馬だ。しかしそれは同時に、われわれの馬でもある。わが一族の月の馬でもあるんだ。森の上方に丘がそびえているかぎり、そしてすべての馬の母でもある女神エポナに祈りが捧げられるかぎり、その馬はイケニ族のことを語り続けるだろう」 (p.137)
 丘の北の斜面に掘られた馬の形は、
 馬がどういう形となるべきか、今ならよくわかる。翔けろ! 日の出から日没に向かって、波打つ丘を従え、天空を翔けるんだ。あたかも馬の女神エポナが御自ら、ルブリンの眠りのなかに現れ、親しく語ってくれたかのようだ。(p.160-161)
 表紙カバーの写真を見て、「太陽の馬か月の馬か」 と問われたら、「えぇ~エビかと思った」 って言ってしまいそう。ルブリン泣くかも。
 二者択一を強要されたら、「月の馬」 だろうか。

 

 

【捕虜生活】
 全長111mほどもある、この大きな馬を掘り出すのはたいそう過酷である。
 日々が過ぎ、そしてまた日々が過ぎていった。男たちは幅広の鹿の角で作った鍬やら、すきやらを使って、地面を掘った。表面の土は汚れていてあまり白くないために、掘り出さなくてはならない。とうとう腰ほどの高さまで掘り下げ、積み上げる。後で表面にあった汚れた土を穴に戻して、最期に真っ白な土で表面をおおうのだ。(p.172)
 やがて1年が過ぎ漸く完成する。
 完成した馬を気に入ったクラドックは、ルブリンの一族が出て行くことを認める。
 しかし、いざ出発の時、
 年老いたものは一人として見あたらない。希望を失くした年寄りの上に、捕虜の一年間はとりわけ過酷だったのだ。そのうえ北への出発が近づいてから、何人かが毒を飲んだ。この地に置き去りにされることを恐れ、また一族の足手まといとなることを恐れてのことだった。(p.182)
 近代社会以前は、体力なき者や老人達は、自らの身の振り方を知っていた。
 現代の老人は、過酷な労働もなく元気で、自発的に仕事から引退するどころか、いつまでも退職せずに働き続けているから、代わりに若者達は引きこもっている。雇用のない現代、老人たちは若者の労働市場を奪っているとも言えるのである。

 

 

【ルブリンの最期】
 「覚悟はいいか?」 クラドックがかたわらにひざまずいて、訊いた。
  ・・・(中略)・・・  ルブリンは微笑んだ。「いいとも」 (p.193)
 「自由になれ、わが弟」 クラドックの声がした。
 近づく刃に、太陽が反射するのが見えた。(p.194)
 古代略奪社会で被征服者となってしまったリーダーは、このように全て例外なく殺されることを意味していたのだろうか。ひど過ぎる・・・。

 

 

【実物探索】
 『ケルトの白馬』 に書かれている白馬の地上絵は、今も英国の丘に、美しい姿を見せています。オックスフォードのまちから30キロほど離れた、アフィントンという小さな村の近くです。(p.196)

 現地まで行かなくたって、googleマップ で見られる。オックスフォード付近を出しておき 「アフィントン(uffington)」 と入れて検索する。アフィントンの中心から南に延びるブロードウェイを2キロほど南下すれば、ほぼ90度に道が曲がるところがあるけれど、そこに白馬はある。
 物語の記述からは、丘の北斜面で西に向いて走っているように読めるけれど、グーグルの航空写真で見ると、尻尾が北、頭は南、背が東、脚は西を向いている。


<了>