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 麻薬のフィクサー(仲介者)稼業によって、日本人で初めてレベル4という重犯罪者用の刑務所に入った経験をもつ著者が綴ったタフな実話。アメリカで悪いことして生きていたい人には、参考になる情報が多く書かれている。刑務所内はみごとにアメリカの縮図である。1998年10月初版。

 

 

【マネーランドリーの方法】
 麻薬の売買で得た収入は申告できないし貯金できない。だから・・・
 まず、高級車を汚い金で定価で買う。数日後、同じ車を購入価格の30%オフで売りにくる。 ・・・(中略)・・・ アメリカの車には 「 Pink Slip 」 という所有権を示す書類が付いているから、彼の手元には売買の証明書と共に ・・・(中略)・・・ きれいな金が残る。自分の車を売って得た正当な金なので、自由に使えるし貯金もできる。最初の車をどこで手に入れたかは全然別の問題なので問われない。これがマネーランドリーの仕組みだ。(p.59)
 バッチイお金の30%を切り捨てれば、70%はきれいなお金になる。そのためのランドリーに高級車が使われる。著者は、もともとは車を扱うディーラーが生業だったけれど、それ故にフィクサー稼業にも縁ができてしまったということらしい。

 

 

【豪遊】
 生業でも年収一億円あった著者は、麻薬で1日に1千万円稼いでいたという。
 ラスベガスについてからはカジノをはしごした。ブレイメイトやハーレーガールズたちはアメリカでは有名なので、絶世の美女を12人もぞろぞろ引き連れて歩いていくと、
「おい、あいつは一体誰なんだ?」
 と周囲から羨望の視線を浴びた。これが誠に気持ちがいい。最初に女の子たちには1千ドルずつ ・・・(中略)・・・ (p.75)
 ボカスカ手に入ってしまうバッチイお金は、蓄えるわけにもゆかないので、このように豪遊で使い果たすしかなかったということらしい。

 

 

【交際範囲】
 このころ私は、日本の芸能プロダクションの社長の紹介で、「今、日本で一番売れているアイドル」 に会った。 ・・・(中略)・・・ 体重も頭も軽そうな女の子で、ずいぶん舌足らずな話し方をするので最初は中学生かと思った。彼女は 「聖子でーす」 と挨拶した。
  ・・・(中略)・・・ それから何年かして、彼女が 「○○○聖子」 という名前の、日本では有名なブリッコ歌手だと知った。
 日本の芸能人なんかには全く興味もなかった。私が個人的に親しく付き合っていたのは、イーグルスのメンバー、ドン・ヘンリーとか、歌手のジョニー・ミッチェルとか、ハリウッドスターのミッキーロークなどだ。ボップス系歌手のリンダ・ロンシュタットとプライベートで食事に行ったり、ブルース・ウィルスと朝まで飲み明かした。(p.79-80)
 ブレイメイトやハーレーガールズを引き連れて歩くことが快感の著者に、松田聖子など興味の対象になるわけがない。
 この交際範囲も、Money talks(カネがモノを言う) の国、アメリカならではである。
 この時期、イーグルスの名曲 『ホテル・カリフォルニア』 に住むことになろうとは思いもしなかったはずだし、イーグルスやリンダ・ロンシュタットなど大勢がカバーしていた 『デスペラード』 の歌詞が現実に則して胸に迫るようになろうとは思いもしなかったに違いない。

 

 

【現地用語】
 アメリカでは麻薬全般のことを 「ドープ」 と呼び、麻薬中毒者のことを 「ドーフィン」 という。もちろんスラングで、日本人が好んで使う 「ドラッグ」 や 「ジャンキー」 という言葉はもっと広い意味があり、薬全般を表したり、酒や甘い物などへの異常嗜好癖に対して使う。
 コカインはコカの木の葉から採れ、常習性がある。大麻やケシなどのドラッグは 「ナチュラル」 と呼ばれ、覚醒剤は 「ケミカル」 とも呼ばれる。(p.99-100)

 

 

【レベル4】
 6年間ほど easy come easy go の世界を生きていた著者は、1990年、ついにパクられた。逃亡時に発砲したため、誰も殺していないのにも係わらず、レベル4行きとなってしまったらしい。レベル4への入所は、著者が日本人初の快挙(?)である。
 「マキシマム・セキュリティ」 のレベル4は、どこに行くにもガンポイントがある。レベル3とレベル4の決定的な違いは、レベル4は 「No Warning」、つまり警告なしで撃たれるということである。(p.120)
 つまり、看守が誤解を招くような不用意な言動は、直ちに射殺されることを意味する。
 レベル4では3ヶ月間、貝のように押し黙っていた。すると、人間とは不思議なもので、声が出なくなってしまうのだ。 ・・・(中略)・・・ 話しているうちに音声にならなくなってしまうのだ。(p.143)

 

 

【バルーン】
 もっとも確実に渡す方法が面会だ。(p.152)
 面会者から、直接麻薬を受け取る方法が書かれている。書き出すのは止めておくけれど、ちょっと詳しい人ならバルーンという単語だけで直ぐに分かるだろう。どうしても欲しい人々はそこまでやる。感心する。

 

 

【レベル2 : ホテル・カリフォルニア】
 レベル4で、デスペラード(ならず者)たちの頂点に君臨した著者。真面目に刑期を務めていたため、やがてレベル2に移動することになった。
 「ホテル・カリフォルニア」 と聞くと日本人は 「ビバリーヒルズ・ホテル」 とよく勘違いするが、それとも違う。実はCRCという刑務所のことだ。
 そもそもホテル・カリフォルニアは1930年代にアルカポネがオーナーとして所有していた。カポネが脱獄容疑で逮捕されてからホテルは政府に没収された。最初は軍の施設として利用されたが、その後、受刑者を収容するカリフォルニア・リハビリテーション・センターとなった。(p.208)
 この本を読むまで、そうとは知らなかった。全体的に怪しげな歌詞だし、特に最期の “ you can checkout anytime you like, but you can never leave.” という不思議な歌詞の根拠がこれだったのだろう。

 

 

【シャットコール : ルイ親分】
 著者の腕に掘られていたタトゥーにそう書かれていたから、ルイと呼ばれていた。
「彼の教育をきちんとしてくれ。彼はみんなに迷惑をかけ、刑務所の平和を乱している」
「なるほど、ルイの言うとおりだ。こちらで責任をもって解決しよう」 (p.262)
 黒人の新米を黙らせるために交わした、黒人グループトップとの会話である。
 刑務所の中の古い人間ならば注意もできるし、新入りも従う。これにて一見落着だ。
 看守への影響力、受刑者への信頼度、実質的に金をもっていること、私はすべてにおいてもっとも抜きんでていた。だれもが 「シャットコール」 と呼ぶようになっていた。
 麻薬のフィクサーをやっていた時同様、金と権力があるところにはそれを目当てに小さな人間が集まってくる。(p.262)
 ここでも著者は、あらゆる人種あらゆる国籍の受刑者のトップに君臨した。こんなところでも日本人がトップに君臨していたなんて、凄い(?!)ことである。不謹慎かもしれないけれど、ちょっと嬉しい。

 

 

【外国籍犯罪者の社会問題】
 ベトナムは政策により、「一度国を捨てた人間は受け入れない」 という姿勢を強く打ち出しているし、共産国キューバは帰国したらその場で銃殺されてしまう。強制送還したら、彼らは殺されるし、釈放したらまたアメリカで犯罪を犯す。行政側も彼らに頭を悩まし。処分を決めかねているのだ。(p.315)
 窃盗犯罪で入り、7年の刑期を終え、23年も前に強制送還の判決が出ているにもかかわらず、30年間もホテル・カリフォルニアで生活している67歳のベトナム人受刑者のことが書かれている。保釈金を払ってくれる人が一人もいないので居続ける老人受刑者が多いらしい。

 

 

【日本社会】
 レベル4から数えて通算7年の刑期を終えた著者は、日本へ強制送還された。
 なよなよした男が女の格好していたり、若いカップルがカルバン・クラインのパンツをはいてそれを見せびらかしていた。中学生がキャミソールの下着姿で竹下通りを闊歩していたのには、思わず目が点になった。
「彼女、大丈夫かなぁ。アメリカでは1時間もしないうちに強姦されるぞ」(p.327)
 アメリカに行って、日本と同じ感覚で本当に強姦されてしまう人が後を絶たないという話は、体験記の中でしばしば読んでいる。ショックで直ぐに日本に帰るも、家族にも言えず、おとなしく生きている女性は少なくないらしい。

 

 

【マリーン】
 著者の恋人であり妹である日系2世のマリーンは、この著作の中で重要な位置を占めているけれど、今まで書き出さなかった。最期に、ちょっとだけ・・・
 日本へ強制送還された著者は、再びアメリカへ入国できない定めである。
 彼女からは未だに手紙とバースディプレゼントが届く。手紙は一枚残らず大切に保存してある。既に既婚者であるマリーンだが、彼女が窮地に陥った時には、密入国してでも助ける覚悟だ。直接渡米することはできないが、メキシコ経由で入国すればいい。偽造パスポートも簡単に手に入るが、その機会がないことを祈っている。(p.331)
 

 
<了>