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 一匹のワンコを飼っているたいていの日本人が読んでも、それほど参考になることは書かれていない。複数の犬を飼っている状態での観察が綴られている。

 

 

【群れの上下関係】
 序列の低い犬がおのれの分際を心得、それからはみださずにいるかぎり、序列の高い犬たちに襲われることを心配する必要はない。さらに序列の低さをうやうやしく示してみせることにより、ある集団のメンバーの地位を確保することもできるが、同じ犬がその集団中の序列の高いメンバーと張り合おうとすれば、たちまち集団から締め出されてしまうだろう。犬たちは、彼らの社会がきちんと組織されていることを望む。(p.112)
 お猿さんの群れと同じである。
 著者の家庭では複数の犬が飼われている。何度も引っ越しながら、メンバーが若干変わるにせよ常に複数の犬に囲まれている。広大な敷地が当たり前のアメリカ生活でならばこれも可能であるけれど、日本の住宅事情ではこのような環境下の事例はそれほど参考にならない。
 犬がなにより望むことはなんだろう? それは集団に帰属すること、仲間を持つことである。(p.161)
 日本のほとんどのワンコは、生涯この望みが叶えられないだろう。可哀そう。

 

 

【帰還時の臭いチェック】
 ある犬がしばらく留守をして戻ってくると、他の犬たちは無言のうちに彼をとりかこき、彼を嗅ぎまわって臭いを調べる。体の臭いは、彼の心理状態だけでなく、他の多くのことを教えてくれるはずだし、彼の行ってきた場所についても、被毛についたにおいから知ることもできる。一同は彼のくちびるや、彼の頸毛、ペニス、脚および足などを嗅ぐ。だが肛門や肛門腺を嗅ぐことは、ぜったいに、とは言わないまでも、めったにしない。明らかにそれらから得られる情報は、その犬の “ペルソナ” にかかわるもので、彼の旅の内容とは関係ないからだろう。犬たちはおなじようにわたしをも調べようとする。とくに、わたしが長らく留守にしたあとなど、まるでわたしが強い臭気のなかを通り抜けてきたみたいに、膝から下をとくべつ念入りに検査する。(p.149-150)
 わが家のワンコもチャンちゃんの臭いを必ずチェックしている。留守をしていなくても毎日である。
 犬用の服を着せられ香水をかけられたワンコが、普段はおとなしい犬の群れに囲まれ、危ういところで惨事になりそうだったけれど、即座にお腹を出して服従の意志を示し難を免れたという事例が記述されている。 犬にとって臭いはアイデンティティそののもだから、人間は余計なことはしないほうがいい。

 

 昔の日本人の奥様は、外出先で旦那が不埒なことをしないように、一度解いたら二度と結べない結び方で着物の紐を結んだという。その個性ある結び方が家紋になったり、 “結(ゆい)“ という集団の紋になったりもしたのである。
 西洋では、男性が縛られたのではなく、留守をあずかる女性の方が金属の貞操帯を付けられていたという絵入りの本を読んだことがある。
 西洋の女性より日本の男性の方がマシだろうけれど、いずれにせよ管理される方はとてつもなく難儀な話である。
 その点、臭覚が優れているワンコの外出管理は、帰還時の臭いチェックだけなのだから、人間より遥かに優れている。
 
<了>