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 小説の背景はインドである。インド社会の意外な現実に驚きつつ、幸せなエンディングにホロッと涙してしまった。過度な技巧を排した少女の心に浮かぶ短く簡潔な文章が、この小説の煌めきになっている。全米図書賞受賞作品というだけある。

 

 

【白いサリー】
 この物語の主人公のコニーは、13歳の時、持参金を携えお嫁に行った。相手は病身のハリ。ハリの母・サスにとっては、ハリの病気のために必要なお金が目的の結婚だった。ハリをガンジス川で沐浴させて間もなく、ハリは死んでしまった。
 ハリが死んで数週間後のある日、サスに、未亡人の白いサリーを着るようにいわれた。 (p.48)
 13歳にして未亡人。過酷な労働と姑:サスからの嫌がらせの日々。インド社会の未亡人に対する扱いはたいそう過酷である。

 

 

【帰る家のない鳥】
 しかし、学校の先生をしていた舅:サッサーはサスに隠れてコニーに字の読み方を教えてくれていた。サッサーが一番大切にしていたのはタゴールの詩集。文字の読み方が分かるようになったコニー。
 あたしは、いちばん気に入っている詩を読んであげた。鳥の群れが昼も夜も空を飛んでいく姿をえがいた詩だ。群れのなかに一羽、帰る家のない鳥がいる。いつもちがう場所にむかって飛んでいく。(p.62)
 コンピュータリゼーションの影響でサッサーは仕事をなくし、やせ衰えてついに死んでしまう。収入が途絶えお金に困窮する故に、タゴールの詩集を売るというサスに対して、コリーは隠しておいた銀の指輪を差し出してタゴールの詩集を守った。

 

 

【死者に対するインドの風習】
 サッサーは、手の親指どうしをひもで結ばれた。これからはもうはたらけないってことを示すためだ。足の親指どうしも結びつけた。幽霊になってもどってこないように。(p.84)

 

 

【カースト差別思想行動の具体例】
 ヒンドゥー教でいやしいのでふれてはいけないとされている人たちが鉄や古い木箱のくずを使ってたてた家があった。「あの人達の影が自分にかからないようにおし。さもなきゃ、けがれちまうよ」 (p.48)
 カースト外とされる untouchable (不可触賤民) に対する思想行動の具体例。

 

 

【ヴリンダーヴァン】
 デリーに住むサスの弟の所へ越すために、家や土地など全てを売り払い、途中で立ち寄った寺院の建ち並ぶ都市:ヴリンダーヴァン。ここで、食べ物を買うようにと50ルピーを渡されてコニーが買い物に行っている間に、サスは消えてしまった。
 サスはしょっちゅうあたしをしかった。それに、まるで子猫を井戸のなかに落とすみたいに、あたしをこの街におきざりにした。(p.111)
 人力車の男の子に泣いているのを見られたくなかったけど、涙がほほを流れるのを止められなかった。
 男の子はあたしを見つめた。「ここじゃ、よくあることだよ」 男の子はいった。 「ほかの未亡人がやっているみたいに、お寺に行ってチャントをとなえればいいよ。お坊さんが食べ物をくれるから」 (p.99)
 人力車の男の子、名前をラージという。数日後、ラージの紹介で寺院の階段での寝泊り生活から脱出できた。ブーケを束ねる仕事も手に入った。さらに篤志家のデビ夫人の目にとまって、コニーの得意な刺繍の仕事で高賃金を得ることができるようになった。

 

 

【ラージ】
 コニーは字の読めなかったラージに読み方を教えてあげた。ラージはお金が貯まったら作物の種を買って、田舎に戻ってそれを蒔くのだと、川のほとりでコニーに話していた。
 ラージからうれしい知らせがとどいた。「きみをびっくりさせる準備がととのったよ。家に小さな部屋を作ったんだ。きみが刺繍をする専用の部屋だよ。大きな窓が二つあるから、朝日も夕日も入ってくる。片方の窓からは、庭とタマリンドの木が見える。もう片方の窓からは、ぼくが働いている畑が見えるよ」 (p.167)

 

 

【家に向かって飛んでいく鳥】
 デビ夫人はお店に来たとき、ダースさんにいった。「コリーが新しい家で刺繍した第一号のサリーは、わたしが買いますからね。忘れずにキングズ・モスリンをもたせてくださいよ」 デビ夫人はあたしにむかってにっこりした。 「コリー、ふちかざりには、タゴールの詩からとったものをお願いしますよ」
 すぐにあたしは思った。家なき鳥にしよう。とうとうわが家にむかって飛んでいく鳥。 (p.172)
 
 

<了>