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 副題に、「狙われた堤義明」 とあるけれど、芳賀龍臥という総会屋が西武を狙ったのではない。狙ったのは、総会屋を利用してタカっている連中の中にいる。

 

 

【総務部長出身の社長】
 松坂屋の社長も総務部長出身だったが、総務部長が日本企業で出世してきた1つの理由をここに見る気がする。社内の情報を総会屋に流せば、敵対候補を潰すことができ、社内抗争を制することができるわけだ。
 「芳賀は会社に不満を持っている人間を可愛がるんです。おまえをその企業の社長にしてやる、その代わり情報を流せという。そこは絶対に聞き漏らさない。酒や食事を繰り返し、どんどん親密になってゆく聞き出し方がうまかった」(妻・伸子) (p.65)
 派閥や人事の思惑が絡む大企業ほど、総会屋という外圧を利用しつつ体制を作ってきたという薄汚い事実は、若い世代には聞かせたくないけれど、これが少なからぬ日本企業の実態であるらしい。しかし、ここに絡む薄汚い連中は、総会屋だけではない。

 

 

【総会屋の存在を必要とする者達】
「たとえば、キリンビール事件後、各ビール会社には50人の警察が天下るようになったといいます。一度枠ができれば、それは踏襲されつづけます。警察は未開発の上場企業に利益供与罪を適用しつづけるために、まだまだ総会屋の存在が必要なんでしょうね。今度は新しい西武にどれくらいの人数の警察OBが天下るのか、注目しています」
 この元総会屋によれば、利益供与罪の適用の意味は、つぎのようなことだという。
「実は商法の利益供与罪は警察が警察OBを送り込むための企業への刑罰だとも言えるんですよ。もともと、会社を脅かす総会屋を逮捕するならば本来、刑法の恐喝罪で十分だった。量刑をみても、商法上の利益供与罪は懲役3年以下だが、刑法上の恐喝罪は最大で10年とこちらのほうが重いわけです。(p.73)
 82年の商法改正を機に、総会屋への適用罪状が、恐喝罪から利益供与罪に変更された。芳賀龍臥が関わっていたキリンビール事件は93年。松坂屋事件は97年。警視庁の組織犯罪対策課は事件が無くなると予算が削られるので、総会屋を絶滅させるわけにはいかない。いや本当は必要としている。天下り先を確保するためにも、生かさず殺さず塩梅良く遊ばせているのである。
 警察などというものの実態は露骨な公設暴力団である。そして世の中とは、こんなものである。

 

 

【芳賀の顧問弁護士K】
 余談だが、このK弁護士は、小泉純一郎首相のプライベートの弁護士でもあった。小泉首相の妻は今は離婚して鎌倉に住んでいるが、この小泉首相の離婚問題をてがけた元判事のK弁護士である。(p.66)
 小泉元首相の選挙地盤である神奈川県は、西武の関連施設が数多くあるところでもある。

 

 

【マボリ・シーハイツ】
 この馬堀海岸のマボリ・シーハイツに関しては地方政治との癒着どころではない。小泉純一郎首相の過剰な利益誘導があったという疑惑がかねてから囁かれていた。
 ・・・中略・・・。
 小泉は2000年の護岸工事の着工記念式にまで来賓として参加する。地元にすら関心を示さない 「変人宰相」 が珍しい露骨な利益誘導ぶりを見せていた。 (p.111-112)
 マボリ・シーハイツは、西武不動産がてがける分譲住宅地で、西武が所有する神奈川各地の開発地から出る土砂を用いて出来た埋め立て地。西武とすれば実に効率のいい利益創出事業だった。
 小泉元首相と西武の関係について、この書籍は、ここまでしか語っていない。

 

 

【シナリオ通りの立件】
 最初から、(西武を屠るために)芳賀らの 「総会屋」 事件だけを立件することを目的にしていた。新聞記者にも堂々と西武鉄道との闇取引を喋っていた右翼F.。まるで、FとP社の取引については絶対捜査の手は及ぼさないと約束が出来ていたようだ。 (p.131)
 広く集められた情報を、公正に処理して完璧に立件するならば、泥縄式に政界の重要人物にまで繋がってしまう。だから、最初から範囲限定でシナリオ通りの事件として立件するのである。
 シナリオの線引きをする者こそが西武を潰した影の支配者である。警察や司法当局の独自の匙加減ではない。

 

 

【黒ヤギ:芳賀龍臥】
 西武の公判中に芳賀龍臥という老人は病院で死亡している。警察にとっては実に都合のいい結末だったことになるのだろう。利用するに相応しいかった芳賀龍臥という人物のプロフィール。
 かつては担保に預かった株券を食べてしまう(勝手に売り飛ばす)悪いヤギということで 「黒ヤギ」 と言われたが、相手の知識のなさや弱みにつけこむ習性は晩年になっても変わっていなかった。(p.141)

 高校時代に1000万円の宝くじに当たったそうです。それを元手に学生時代から金貸しをやっていたらしいわね。身体が小さいから、番長格には金を握らせていたみたいですね。・・・中略・・・。赤い羽根の共同募金商売もやっていた。学生をただ働きで使って、自分の懐に全部入れたそうよ。だから、芳賀は絶対募金をするなと言っていた。
――― どの話を聞いても悪賢い人だ。(p.168)
 まったく。

 

 

【黒ヤギ:芳賀龍臥の同族たち】
 妻・伸子の語り
 芳賀はよく 「おれがダシになっているんだよ。オレを接待しているように見せかけて、実は自分たちがいい目をみている」 と言っていました。 「銀行はネクタイを締めているヤクザだ」 とか 「銀行は諸悪の根源だ」 と言っていましたね。
 松坂屋事件の頃に、懲役を逃れるために仏門にも入ったんですが、「龍臥」 という戒名をもらうために、よく坊主を飲みに連れていって豪遊させていた。 「あいつらはたかり屋だ」 と文句を言っていた。自分こそたかり屋のくせにね(笑)。 (p.175)

――― 日本社会で会社ゴロ的な存在は、永久になくならないんでしょうかね。
 なくならないどころか、いまも銀行はヤクザだし、警察だってタカってるし、結局、みなが会社のタカリ屋よね。総会屋が全国民に拡散している印象があるわ。 (p.178)
 銀行にだって、警察にだって、会社にだってまっとうな人々は大勢いる。その中で、奸知に満ちた欲心過多の腹黒い連中が “総会屋を利用した類友会“ を結成しているだけではないか。 全国民にまで拡散して総会屋視するのは明らかに行き過ぎである。しかし、明らかに過小な労働量に比して過大な給料を民間からのアガリで賄っている公務員どもは、間違いなくタカリ屋である。
 
 
<了>