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 マルチメディア時代を担う若手企業家の足跡が描かれている。2006年4月初版。
 著者は、ダミ声のあのおじさんではない。 

 

 

【ブロードバンド放送】
「ところで、ブロードバンド放送って、無料でやってみたらどうなんだろうね」
 加茂は、真顔で答えた。
「それはいける。本気でやろう」
 宇野は、加茂の同意を得て、決意を固めた。
 ・・・中略・・・
 宇野の言った「ブロードバンド放送」は、高速で多量の情報を送れるようになってきたインターネット上に、新しいテレビ局を作り、運営していくことだ。「無料で」 は、地上波の民放テレビ局と同じように、スポンサー企業のCMを番組にくっつけて流すことで、視聴者からは料金を取らないという意味だ。
 ・・・中略・・・
 経営コンサルタント会社マッキンゼー出身で、通信・放送ビジネスに詳しい加茂も。新しい放送局ビジネスの可能性が十分あることを調査済みだった。 (p.16-17)
 こうして、ブロードバンド放送、Gyao は、「完全無料パソコンテレビ」 と銘打って、2005年4月25日に開局した。ソフトバンクグループが追随したのは、それから7ヶ月ほど後である。

 

 

【出遅れた日本】
 米国では93年、ゴア副大統領が 「情報スーパーハイウエイ」 政策を打ち出し、韓国では94年に 「超高速情報通信網構想」 が国策となった。
 いずれも光ファイバーの通信網を巨額の予算を投入して早期に広げる、というもの。
 だが、現実は、やや別の方向に進むことになる。米国と韓国では、すでにある電話線で高速に通信できるDSL技術によって、高速のインターネットが急速に普及していったのだ。 (p.71)
 性能に関しては、光ファイバーは100メガbps の速度で安定的に双方向通信ができるのに対し、DSLは早いときでも毎秒数十メガbps 程度だが、電話局からの距離などにより、大幅に遅くなるときもある。
 日本で使われているADSLは、アンシンメトリカル(非対称)のDSLという意味で、アップとダウンの通信速度が異なるDSLのこと。

 

 

【FTTH と ADSL】
 家に光ファイバーを引き込むFTTH(ファイバー・トゥー・ザ・ホーム)をやれば、アメリカにも韓国にも勝つし、やる意味が大きい。で、光ファイバーをやろうと思ったんです。(p.76)
 宇野はイタリアの企業が、FTTH向けメディアコンバーターを扱っているのを知って、利用料のコストダウンが可能になったと判断し、FTTH事業を企画し続けていた。
 2001年2月に発表した時点で、100メガbps の高速通信を使い放題の月額固定で4900円(回線使用料のみ)と当時としては破格の安さを打ち出した。(p.84)
 USEN、宇野のFTTHの価格につられてNTTのBフレッツも同水準まで価格を下げざるを得なかった。ところが、インターネットの高度化を考えていた宇野にとって、ショッキングなことが起こった。

 

 

【ヤフーBBショック】
 それまでも、ADSL接続サービスはいくつもあったが、料金はUSENの光ファイバーと同じくらいであり、同じ料金なら100メガbpsのUSEN側に競争優位性があった。そこにソフトバンク・グループはUSENの光ファイバーの半額という低料金をぶつけてきたのだ。 (p.85)
 日本社会が目指すべきは、宇野が始めたFTTHであるはずなのに、なぜADSLで遠回りするのだろうか? ということになる。現実はなかなか理想どおりにはゆかない。 宇野は、FTTHの照準をマンションに絞って対応せざるをえなかったという。
 USEN・宇野が光ファイバーでのインターネット環境を提供してから、ほぼ8年後の今日、光ファイバー環境は、各社によって徐々に推進されているらしい。動画をあまり多用していない私は、今でもADSL環境で不自由を感じていないけれど、動画主体でPCを用いているのであろう若者の世代は、光ファイバー環境を必須と思うのだろう。
 宇野は、ソニーが海外のエンターテイメントをコンテンツに取込んでいったように、当初から日本国内のエンターテイメントをコンテンツに取り込むことを構想していたらしい。そうでなければ、FTTH環境のインフラなど企画する必要などなかった。

 

 

【USEN – GAGA - avex】
 GAGAは、USENのグループ会社だ。最近の配給映画ではGAGAのロゴの下に、「USEN GROUP」 と表示が出る。GAGAの代表取締役社長は、USEN社長の宇野康秀が兼務している。 (p.102)
 USENは、エイベックス・グループの持ち株会社エイベックス・グループ・ホールディングスの筆頭株主であり、エイベックスの社外取締役には宇野康秀が名を連ねている。・・・中略・・・。新人発掘オーディションを共催しており、強固な協力関係があるのだ。
 USENは自らコンテンツ制作にも着手している。急速にコンテンツに傾斜してきたのがわかるだろう。(p.104)
 インターネット環境下で、PCがどれほど利用されるかは、コンテンツ(情報内容)次第であることを、情報関連の企業家たちはよく心得ている。しかし、情報機器の高性能化と低価格化に連動して増加するのは、エンターテイメントのコンテンツだけではないように思う。むしろ、その方面は飽和しつつあるのではないだろうか。市場規模が大きいから、どうしてもその方面に視線が偏ってしまう。

 

 

【70億の借金】
 光ファイバー事業を立ち上げるために、宇野は個人で70億円もの融資を銀行に依頼していたのだという。
 宇野は、インテリジェンスという人材派遣会社を上場し、父親が営んでいた大阪有線の重大な諸問題をクリアしつつ、光ファイバー事業をも行っていた。
 宇野は、あさひ銀行(現りそなホールディングス)難波支店に駆け込み、「個人で70億円」 の融資を頼んだ。担保は、宇野が保有していた上場済みのインテリジェンスの株式だ。
 ・・・中略・・・
 帰りに、「宇野さん、大口の借り入れ、ありがとうございます・ と、「ミッフィー」 キャラクターの貯金箱を渡された。
「その貯金箱を見ながら、これが70億円なんだぁ、と思いましたね」
 ・・・中略・・・
 この話はUSEN社内でもごく一部にしか知られていない。日ごろ飄々としている宇野が深刻な表情をするのを見たのは、一緒に資金の心配をしていた佐藤ぐらいかもしれない。また、副社長の加茂は、このときの宇野の覚悟を見て、正式にUSENに入社することを決意した。 (p.182)
 融資の担保が人材派遣会社インテリジェンスだったというのを知って、興醒め。 小泉改革で極端な格差社会を惹起した企業の一つという認識だからである。多くの派遣社員のウワマエを撥ねて利益を出している会社である。そんな会社を上場させたの人物の軌跡を著している著作だったとは。

 

 

【人を見るときのポイント】
 どんな人なら投資してきたのか。それは、仕事の仲間選びとも通じる、宇野が人を見るときのポイントでもある。

 一番大きいのは、本当に真剣なのかどうかだと思いますね。会社が大変なときに寝ないで働けるかどうかとか、逆に、ちょっとうまくいったからといって、おカネを持って六本木で遊ぶやつかどうかという、そういう思想だと思うんですよね。
 ・・・中略・・・。
人を見るときは、根本の価値観とか、思想とか、そういうところを見ますね。 (p.212)
 1963年生まれの宇野氏。堀江、三木谷といった名前は比較的よく耳にしてきたけれど、もっとも堅実にビジネスを敢行し、時代の先を見据えて起業していた企業家は、それほど一般人には名の知られていない宇野氏なのかもしれない。しかし、インテリジェンスは、民を搾取する側の企業である。そのカルマがどういう結果を招来するかは、今後を見るうえで指標になるだろう。
 
 
<了>