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 このタイトルには、英国のホテルに勤務したことのある著者ならではの思い入れが込められているのだろう。

 

 

【コミッション稼ぎの王様】
 ちなみに、コンシェルジュの所得は3本立てになっている。1つ目がホテルからの給与(これはたいした額ではない)、2つ目がゲストからのチップ(これは水もの)、そして3つ目がこのコミッション(この金額はでかい!)というわけである。一日中ゲストからの面倒な依頼ごとに追われても笑顔で仕事ができるのは、この実入りのよさゆえだ。・・・(中略)・・・。「味よし、サービスよし、コミッションよし」 の3拍子がコンシェルジュのレストラン選びの条件と言える。コミッション稼ぎの王様、ゲストの目には触れないコンシェルジュの一面である。(p.31-33)
 『わたしはコンシェルジュ』(講談社)の著者(阿部佳)がこの様な記述を読んだら憮然とするのではないだろうか。おそらく日本のコンシェルジュの所得内訳は、英国とは違うだろう。 阿部さんは女性である。「人に喜びを与えられることが最大の働き甲斐である」 というふうに書かれていたのを記憶している。
 この書籍には、この様なお金がらみの記述が何箇所もあるから、「なぜ英国のホテルは世界で最も愛されるのか」というタイトルに辟易してしまうのである。

 

 

【フロント係りは通過職】
 一般に英国の大ホテルでは、フロント係りは若者の仕事である。・・・(中略)・・・。勤務時間も不規則で肉体的にもハードである。その割にはチップの収入が殆ど期待できない。
 英国ではこういう「きついだけの」仕事は、若者が「通過職」としてするものだ。訓練生にはもってこいの仕事というわけである。日本の大ホテルでフロントに40、50年配のオジサンがずらりと並ぶ光景をときに見かける。これは、英国の大ホテルでは絶対にありえない光景だ。 (p.180)
 こういった日英のホテル運営の違いは、平等社会と階級社会という社会構造の違いによっているのだから、ありえようがありえまいが、それぞれであっていい。
 欧米のホテルに行くと、「植民地」を形容詞化した “植民地な世界” という自前の単語をダイレクトに思いつくので、心底イヤである。英国の5つ☆ホテルの従業員は、そのホテルに宿泊するに相応しい階級の人物に対して、サーバントとしての仕事を提供するところなのであろう。 成り上がり志向や上流階級志向の強い日本人ならいざ知らず、欧米のハイクラスホテルは、平均的な日本人にとって決してシックリする場所ではないだろう。

 

 

【日本人ビジネスマンの影響】
 この2つのピークに挟まれた8月は、ホテルの稼働率は意外に落ち着いたものである。ビジネスの動きが沈滞するからだ。これには日本人ビジネスマンの果たす役割も大きい。「お盆休み」 で日本からの出張者がぱったり消えてしまうのだ。日本人の取る休暇が、いまや英国のホテルの稼働率にまで影響を与えるわけである。 (p.149)
 2つのピークとは、初夏の観光ベストシーズンと秋のカンファレンスやショーが多く開催されるシーズンのこと。
 もうひとつ、日本人の影響が記述されている。

 

 

【サーモン・キャビア】
 近年のすしの普及で、イクラの乗った軍艦巻きが人々の口に入るようになって、状況が変化し始めた。かつてはゴミ箱行きだった鮭の卵が、「 salmon caviar 」 という神々しい呼び名で食材として使われるようになったのだ。まさに日本人恐るべしである。 (p.113)
 この程度のことで、なぜ 「日本人恐るべし」 なのだろうか?
 地球温暖化の影響でフィッシュ・アンド・チップスの原料であるタラがほとんど捕れなくなっている英国で、まだサーモンが取れているのだろうか。いずれ捕れなくなったら、味も形もかわらないほど見事なフェイク・キャビアの製造マシンを日本から持ち込めばいいのである。そこまで行って初めて、「日本人恐るべし」 と言えるのではないだろうか。

 

 

【お風呂にカーペット】
 欧米ではバスタブから外へ湯がこぼれ出るというような状況は全く考えられない。こういうわけでバスルームの床に排水口はないのだし、床にカーペットが敷かれることもしばしばなのだ。 (p.68)
 バスタブの上部にも過給湯を排出する口はない。こういったことを知らずに、度派手な洪水事件を引き起こしてしまった日本人には、結構な額の修理費用が請求されることになる。ことここに至って、驚嘆しつつ、むかついても始まらない。文化が違うのだから。 

 

 

【一流かどうかの判別法】
 英国のホテルが一流かどうかを判別するのに非常に簡単な方法がある。客室に電気湯沸しがあるか否かを見ることだ。もしも湯沸かしがあれば、そのホテルは一流ではないということになる。 (p.39)
 5つ☆のホテルに泊まるような階級の人々なら、湯を沸すことなど召使の仕事であって自分ですべきことではない。スイッチを入れてカップに注げば直ぐに暖かいティーが飲めるというサービスなど、5つ☆階級には無縁の世界なのである。5つ☆階級は、そもそも働く必要がないから時間などいくらでもある。召使が運んでくるまで15分でも20分でも悠長に待っていられるのである。
 
<了>