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 日下さんの複数の既刊書の一部分を抽出し編集した本らしい。過去の読書記録の中で書き出した部分が、この本の中にも書かれている。


【スロー・アンド・ステディ】
 歴史を振り返ると、イギリスは1837年から1901年まで、ビクトリア女王の治世64年間に大活躍して北海の島国から全世界を支配する大英帝国になったが、その間の経済成長率はわずかに毎年1%だったという研究がある。
 1%成長でも64年間それを続けると大英帝国になるのだから、日本の今の1%か2%の成長を不景気の極みのようにいうのは歴史を知らない人である。    (p.82-83)
 イギリスに追い越された国は、その間、高度成長と乱費(戦争による)を繰り返した。ステディな外向が重要。

 

 

【日本経済はこれから “質の創造” で世界に貢献する】
 日本には崩壊現象もあれば創造現象もある。それから不動の基盤もある。その崩壊と創造が向かう方向こそが問題で、そのことについての議論が先にないと、話はたんにGDPの量を計測して1~2%の上下を心配するものに終わってしまう。
 日本および日本経済はこれから “質の創造” で世界に貢献するのであって、その方向への破壊と創造が着実に進んでいることをこそ見るべきだと思う。    (p.88)
 単純に表現すれば、上質なものは創造過程にあり、悪質なものは破壊過程に入るということであろう。
 この文章を読みながら、学校教育のことを思ってしまった。高校でも、質の悪い生徒の集まりやすかった公立高校は、少子化の影響でクラスが減っている。日本国内の少子化は、教育現場の自浄作用として機能している。地方の教育行政が新たな “質の創造” を目指さないのであるなら、少子化により閉鎖された公立高校の用地を民間に転売すればいいのである。そうすれば、新たな質を創造する教育機関に変貌する可能性が生ずる。

 

 
【電池潜水艦】
 専門家に聞くと最近はハイテク電池の開発が急速に進んでいるので、何も原子力に頼らなくても①場所が近海で、②目的は商船護衛と領土保全で、③相手国が中国であれば、ディーゼルエンジンとハイテク電池の潜水艦でもやれますという返事だった。日本の技術は日進月歩らしい。   (p.100)
 原潜というと強そうだけど、電池潜などというとオモチャ? などと聞き返したくなってしまう。技術が進歩するとオモチャの発想が現実のものになるのである。日本という国家は “ドラえもんのポケット” である。

 

 
【台湾精神はあるのか?】
 李登輝さんはこういっている。
“自分は平和の裡に台湾人の台湾をつくろうと思ったが、意外に事が進まない。どうも台湾には台湾精神がない。日本には明治維新のときすでに日本精神があったのがうらやましい。やはり、中国文明では政権交代には何万人かが死なないと新国家が誕生しないらしい”
 そこで日本風の平和革命をするには台湾精神が必要だというわけで、いまは “正名運動” というアイデンティティづくりに力をそそいでおられる。
 正名運動とは、 “中華航空” とか “中華電機” とかの名称を、台湾航空や台湾電機に代えることで台湾意識を高めようという運動である。
 まことに穏やかなやり方だと感心するが、それすらもなかなか進まないとは、台湾にいる人たちはやはり中国人なのかと思ってしまう。 (p.104)
 中国に進出している台湾財界人は、有事の際にはカナダに逃げる準備を万端にして稼いでいるという。
 「名より実」 の中国人気質モロ出しである。

 

 
【外向下手は、日本ではなく中国だ】
 中国は徹底的に現実主義で力の信奉者だから、強いか弱いか、上か下かの発想から全てが始まる。だから平気で恫喝する。契約を破る。そして、相手の反応を見て次の対策を考える。それで中国外向はたいてい失敗している。成功するのはたまたま力がバランスしたときと、相手が失敗したときだけである。
 一方、日本の外交はどうか。日本外交は礼儀正しく、平和主義で、有効のためには自分から一歩も二歩も下がるという、珍しいものである。だから相手国に付け込まれる。しかし、じつは日本には反発力があって、日本を深追いすると、相手国は後悔することがしばしばある。   (p.129)
 この記述の後、イギリスの事例が書かれている。日本の譲歩に付け入ったイギリスは、「刺し違えるしかない」 と反撃に出た日本に、イギリスが誇る戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスの2隻を撃沈され、シンガポールを失うことになった。このとき、
 チャーチルは、「日本はこれほどの力があったのならもっと早くいってほしかった。日本人は外交を知らない」 といったという。つまり、日本は相手に礼儀を尽くしているだけで外交をしていない。外交は駆け引きのゲームであって誠心誠意では困る、ということらしい。   (p.130)
 こういう面白い記述が、 “わが国” をもって自認する日下さんの著書の良いところである。

 

 
【日本財団会長の笹川陽平氏】
 日本財団は南京大学の大講堂に日本語を勉強している大学生を集めてイベントをおこなったという。
 このイベントの際、日本財団会長の笹川陽平氏は日本語で “私はあなたがたが大嫌いな日本人です” とスピーチを始めた。会場は大笑いである。日中間では 「歴史認識」 が話題に上がるが、60年程度ではなく、2千年の歴史に目を向けようと訴えた。
 天安門事件にも触れ、全世界が中国に対して経済ボイコットをしたとき、日本が1兆円の援助を行い、中国の国際社会からの孤立を防いだことを説いた。
 また、中国はいまバブルの最中だが、バブルはいつか必ずはじけるもので、いずれそうなったときはアメリカは1ドルだって出さないだろう、あなたがたが頼りにするのは、また日本だけではないのかと問いかけた。
 2千年の歴史から始まって未来まで見通す、見事なスピーチだった。こういった踏み込んだ話を堂々とできるのも、民間交流の強みである。   (p.152)
 「日本財団」 の前身は 「日本船舶振興協会」 である。競艇の胴元なのだからと、初代の笹川良一さんという人物に余り良好なイメージは持っていなかった。ましてや落合信彦の本の中に日本の黒幕の一人として紹介されていたので、私自身、たいへん大きな誤解をしていた時期があった。
 「人類はみな兄弟」 というメッセージで有名だった笹川良一さんは、そのメッセージの通り、アフリカのハンセン氏病(らい病)撲滅のために、私財を決して溜め込むことなく振興協会の資金を投入していた人だった。笹川さんが亡くなられたとき、御実家は雨漏りのするような家屋状況であったという。ご子息の笹川陽平氏が書いておられる 『知恵あるものは知恵で躓く』 (クレスト社) という著書に当たられるといい。良書である。また、
『外務省の知らない世界の"素顔"』 (産経新聞社) には、台湾の蒋経国についてビックリする事実が書かれている。『颯爽たる人生 笹川良一』 (産経新聞社) は、秘書であった神山榮一氏の著書である。

 

 日中関係にかかわる愚かな政治や外交の綻びを縫いとめてきたのは、間違いなく日本の民間交流である。「日本財団」 はその中でも大きな働きをなしている団体なのだけれど、それ以外にも、重要な働きを秘めていた民間のミッションはいくつかある。

 

 
【 華僑 vs 印僑 】
 なにしろ、華僑は世界中どこにでもいるが、インドだけにはいない・・・・さすがの華僑も印僑には敵わないらしいとは昔から言われていることで、実際、インドでは中華料理屋がさっぱりない。懐石料理屋のほうがある。(p.171)

 

 
要・再確認】
 田中角栄が日中友好条約を結んだ時期の外務省の人はしっかりしていた。戦争責任も賠償も一切認めなかった。それはそうだろう。中華人民共和国はサンフランシスコ講和条約で戦後処理が一切終了してから誕生した新しい国だから戦争とは無関係なのである。   (p.187)
 このことは、ゆるぎない歴史の事実として再確認しておこう。
 
<了>