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 著者は、世界中を飛び回っている方。いくつかの歴史的な瞬間に、その現場にいたということである。タイトルは、ややセンセーショナルに過ぎると思うけれど、中国語が堪能な著者の体験を通じて書かれている本なので、興味深い点が多い。


【領土問題】
 元CIAの対中スパイで、台湾、韓国、中国の大使を歴任したアメリカきっての中国通J・ケリー氏は「中国政府がもっとも神経質になっているのは、実は日本の歴史問題でも、国連問題でもなく、日米同盟による台湾防衛に関する問題」だと、ズバリ指摘している。  (p.39)
 今は、オリンピックを前にチベット問題だけれども、領土にこだわるのはそこに地下資源という財宝があるからである。台湾の場合は、海底油田以外に地政学的に太平洋への出口として重要である。

 

 

【9人の政治局常務委員】
 <5・4運動>の記念日である5月4日。ネット上では、北京、上海でのデモを上回る反日デモの呼びかけがあったが、結局、何も起きなかった。まるで、中国政府にデモを抑える力がなくなっていると分析し報道し続けたナイーブな日本のメディアをあざ笑うかのようだった。
 大衆を政治に利用し、大衆を統治する権謀術数。あの文化大革命と同様の手法である。このことを理解するには、中国の権力機構への知識が必要だ。・・・(中略)・・・。
 実は常務委員の9人にはもう一つ面白い共通点がある。9人全員が、理工系大学の出身であるということだ。また精華大学出身者が多いので、清朝をもじって大清帝国といわれている。・・・(中略)・・・ (p.45)
 繰り返すが、中国はたった9人の中央政治局常務委員会の決定ですべてのことが始まり、事が終わる。だから、共産党政権の足元が揺らいでいるなどという報道は、「タメにするデマ」よりも悪質だといえよう。 (p.46)
 たった9人の政治局委員がすべて理工系出身者であるならば、彼らは少なくとも、欧米サイドの金融イデオローグとなって日本の技術力を軽んじている日本のマスコミよりは、日本の技術力を正当に高く評価できるはずである。であるならば、むしろ、日本との深く強い連携は可能であると考えることも不可能ではない。
 いずれにせよ、両刃の剣である。

 

 

【中国人とユダヤ人】
 そういえば、ハーバード大学で中国語を教えていた友人が  「人生観とか、生活習慣とかが中国人といちばん似ていると思われるのがユダヤ人だ。私たちとユダヤ人の発想はよく似ているし、私もそう思う」 といっていたが、これも頷ける。  (p.84)
 唐で反乱を起こした安禄山にしても、その名前が意味するところは、ウイグル人とソグド人の混血だという。
 詩人・李白にしても、その出自は漢民族ではないらしいことは過去の読書記録でも書いている。
  《参照》  『わたしはモンゴル人』 ボヤンヒシグ 講談社
             【李白の故郷】

 

 

【劉江永・精華大学国際問題研究所長】
 劉教授は日本研究のトップ  (p.90)
 この人の神道に関することなどの日本理解が書かれているのだけれど、ひどいデタラメである。話にならない。
 元中国大使のJ・リリー氏(J・ケリー氏の誤記と思われる)も「中国人は日本人の言い分なんかにまったく興味を持っていない。最初から日本人の意見を聞くつもりなどないのです。ヤスクニに関して文化的側面への理解を求めても、徒労に終わるだけです」と警告している。  (p.96)

 

 

【中国女性の野心と野望:夫婦別姓は男女同権か?】
 中国女性の野心や野望、戦略性は日本女性には想像もつかない凄さがある。それもこれもやはり歴史的に続いた特殊な男尊女卑に由来するものだろう。
 中国では(小中華を自称する韓国でも同様だが)、儒教の影響で 「父系の血統主義」 に基づく家族制度で、子供は父の姓を名乗るが、妻は結婚して子供を生んでも夫の姓にはならない。つまり夫婦別姓なのである。(これを、男女同権に基づくものと勘違いし、中国ですら夫婦別姓だ! などと言っている日本人がいるようだが、まったく逆の話だ!)  (p.124)
 福島瑞穂という女性の国会議員がかつて夫婦別姓を唱えていたかれど、日本を中国や韓国のような根底的な女性差別国家にしたいらしい。儒教文化に関する教養が本気で無いのか? 左翼なのか? いずれにせよ根本的に日本文化の破壊者である。祖先を辿れば中韓いずれかの血統に連なっているのだろう。
    《参照》   日本文化に関する疑問と回答
             ■「父系の血統主義」は男女別姓という差別を常とする ■

 

 

【高砂義勇隊】
 彼ら(高砂族)は日本統治までは未開の民として山岳地帯に押し込められ、狩猟を業とするしかなく、部族間の抗争も多かった。従ってより勇猛で古来の日本のサムライの精神に似た戦う気概を持っており、日本統治後は、教育、医療の恩恵を受け、初めて国民国家の一員として遇され、一般の台湾人よりも「日本人」になろうという意識が強かった。  (p.183)
 パプアニューギニア、ガダルカナル、ソロモンの日本軍はその一割も復員できなかったが、高砂義勇隊のいた隊だけは助かった。すべて彼らのお陰なのだ。この激戦地で彼らと行動を共にした陸軍の将校や下士官は死ぬ間際に、 「高砂義勇隊の活躍は一生恩にきる。いくら感謝しても足りない」 と書き残している。  (p.185)
 日本の撤退後、・・・(中略)・・・、彼らの存在が、台湾国民党政府の教科書に載ることはなかった。そして日本でも軍隊全体が否定され、彼らの日本への貢献が、教科書に一行でも書かれることはなかった。しかも彼らは、日本軍人に数えられ、軍務手当て(給料)を預金していたのだが、国民党政府に露見することを恐れて、書類一切を償却してしまった人が多い。また日本の軍人に支払われた軍人恩給も、中国国籍に変わった彼らには支払われなかった。   (p.186)

 

 

【台湾と日本の距離】
 在中経験13年、在台経験9年の商社勤務の中国通の(著者の)後輩の言葉が書かれている。
 「学長 (先輩という意味)、李登輝さんや金美齢さん、蔡焜燦さん (彼らのことを親日家と呼ぶと怒る。愛日家と呼ばねばならぬ) が、雑誌の 『正論』 や 『諸君』 を始め、一部日本の保守メディアでは、もてはやされているが、その影響で、台湾が親日だと思っている日本人が多いのには困ったものです。
 特に日本では、黄文雄氏の中国論がよく売れるとか。彼なんか、昔の日本の愛国党総裁だった赤尾敏が書く本と同じで(一方的で極端ということ)、台湾では誰も相手にしていませんよ」
 黄氏の著作は、私は中国理解にとって必要なものだと思っているのだが、台北に住む彼は、「無益の長物で読むことは時間の無駄だ」 という意見を持っているようだ。・・・(中略)・・・。   
 李登輝氏を筆頭に、いわゆる 「日本語世代」 が去ると同時に、台湾と日本の距離は確実に今よりも遠くなるのだ。  (p.191-192)
 台湾の書店に平積みされている書籍で最も目に付くのは、圧倒的に大前研一さんのビジネス書である。利に聡い中国人のDNAを有する台湾人なのであるから、それも必然なのだろう。確かに黄文雄さんの書籍を目にした記憶はない。
 心情を通じて日本をよく知る 「日本語世代」 が少なくなってゆくのは時の経過と共にやむをえないことである。しかし、ハイテク関連の台湾産業界は、今でも、そして今後とも日本との関係が消えることなどありえないのである。それは、台湾が必要とするからである。そして、日本のマンガを通じて日本を好むようになる世代が増えて行くことは期待できるのではなかろうか。
 著者は、卓抜な語学力を持っている優れたジャーナリストなのだけれど、「海外での経験が多すぎるが故に、かえって日本独自の強さや美しさが日本を守っているという視点が欠けているのではないだろうか」 と思えてしまった。
 世界の過渡期を支えるという日本の使命を終えるまで、日本が世界の舞台から消えることなど決してない。中国を過剰に恐れる必要もないと、思っている。
 
<了>