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 皮相な内容の本である。若い女性向けの旅行ガイドみたいな記述が半分近くを占めている。

 

 

【ミシンから】
 1989年、著者がNHKの職員だったとき、日本からミシンを送るという国際交流の取材でベトナムを訪れたのが最初だったそうである。
 当時のベトナムには、単一の放送局しかなかったので、著者が映っているビデオが放映されたことで、一躍、有名人になったとか。それでもって日本語学校の先生をやったりもしたとか。

 

 

【アオザイ】
 ベトナム戦争後、アオザイは華美で贅沢だと影を潜めていた。しかし、世の中が落ち着くにつれ、公式の場ではアオザイを着る女性が増えてきた。
 アオザイは長い衣という意味だ。ベトナムの民族衣装だが、その歴史は意外に新しく、現在のような腰の上までスリットが入った長袖のワンピース(アオザイ)にパンタロンというスタイルができたのは18世紀のことだといわれる。そして、フランス植民地時代の1930年代にレー・フォーとグエン・カットウオンという二人の画家がモダンなデザインに変え、時代と共に洗練されてきた。
 ・・・(中略)・・・。
 アオザイがどれがけ日常の風景になっているかは、ベトナムの自由化と経済の復興振りを計るバロメーターでもあった。 (p.46-47)

 

 

【ベトナムの匂い】
 「どの国の都にも忘れられない匂いというものがある」
 開高健氏の 『ベトナム戦記』 は、こんな文章から始まっている。開高氏にとって旧南ベトナムの首都サイゴンの匂いとは、もちろんニョックマム(魚醤)だ。  (p.150)
 89年頃もニョックマムだったけれど、今は排気ガスだという。
 女性たちは粉塵と臭いを避けるため、口を三角巾で覆い、サングラスをかけてバイクを飛ばしている。まるで月光仮面のようだ。
 これに関してはベトナムより台湾のほうが圧倒的に歴史の長さと個性がある。
 台北では、MRT(捷運)ができて以来、バイクの数はかなり減っているけれど、可愛い女の子が分厚い唇の描かれたドデカイマスクをかけていたりする。 「さすが台湾!」 と思うのはこんなところだ。

 

 

【過去を語らぬベトナム人】
 ベトナムの人たちはすすんで過去を語ることはしない。それを辿るとかつてお互いに対立する陣営にいたことが明らかになることもある。だから、相手が自ら語り始めるのを待つという暗黙の了解がある。 (p.224)

 

 

【越】
 昔、越という国名で呼ばれていた頃の時代を扱っていた本にとても興味を持ったことがある。一時は百越といわれたほどに多くの国に分かれて繁栄していた時代があった筈だ。その頃は中国の華南地方にまで広がっていたのである。そんな越のルーツに関することなど、この本には一切記述されていなかった。単に1989年以降のベトナムというだけなのである。

 

 

 結局、著者の個人的な旅行記ないし滞在記という程度の内容しかない書籍である。古書店で手に入れた本だからいいようなものの、こんな本を新書で買った人は、中身がなさすぎて憤然とするのではないだろうか。
 
 
<了>