イメージ 1

 「いまのアジア」を理解するためには、一国の社会に密着した地域研究の手法と、国や地域を越えて動く企業の新しい行動原理を探求する視点の両方がどうしても必要だという認識から生まれたのが本書だという。(p.158)
 著者が対象とした一国と言うのは、東南アジアのハブとなった “タイ” である。


【タイの自動車産業が抜きん出た理由】
 競争制限的政策(「部品の国産化政策」)を嫌った日本企業や欧米企業は、投資相手国として1990年以降、いちはやく自動車産業の自由化に踏み切ったタイに生産拠点を集中させる。・・・(中略)・・・。その結果、世界「7大グループ」の東南アジア生産・輸出拠点にタイが選ばれたのである。 (p.88)
 世界「7大グループ」の東南アジア生産・輸出拠点にタイが選ばれたといっても、タイ国内を走っている自動車の90%は日本メーカーの車である。特にバンコックの自動車渋滞状況創出に一役買っていた日本の自動車業界の中でも、ODA絡みの官民癒着の天下り人事で業績を伸ばしていたニッサン車の占める比率が最も大きかったのではないだろうか。ゴーン革命に連なるニッサンの蹉跌はここにあったのである。
 ところでどのような経緯であれ、自由化は、発展が早いと同時に、何らかの衝撃を機に、生産地である地元国からの離脱も早くなってしまうことを “定め” としている。

 

 

【東アジア通貨危機以降】
 1990年代末の東アジア通貨危機の震源地として狙い撃ちされたタイである。
 IMFの定めによって、タイの場合、すべての上場企業は1999年末までに2名以上の社外重役を任命することが指示された。 (p.20)
 ということである。
 タイのように日本的な経営方式を受け入れて発展してきた国であっても、今日では、多国籍化という欧米経営陣による合法的乗っ取りが完了している。
 同様に、韓国においては、取締役総数の2分の1以上の「社外取締役」を置くことが決められているのである。

 

 

【ジャパン・パッシング】
 今や、東アジア地域全域において「ジャパン・パッシング」になっていると、著者は書いている。すなわち、アメリカ化か中国化のいずれかに席巻されている状況ということである。
イメージ 2
 その事実( 「パッシング」 というより 「バッシング」 に近いけれど )を如実に表しているのが、国際的なハブ空港として機能しているタイ空港内のみならず、東南アジアの空港ならどこでも販売されている英文書籍、“Rape of Nanking” (上掲の写真)である。米・中のいずれであれ、日本の政治的・経済的影響力を排除したい意向に変わりはないのである。
 
<了>