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 東京都商工会議所の 「企業の社会的責任委員会」 委員長を務めるほどに、優れた業績を維持している会社の経営者でありながら、自社(メリー・チョコレート・カンパニー)を決して上場しない経営者が書いた書籍。


【<年功序列>とは、<年齢序列>ではない】
 メリーでは、一貫して終身雇用制度と年功序列による給与体系を維持している。
 忘れてならないのは、<年功序列>とは、年齢とともに功績をも反映させた給与体系であるべきということである。
 一般に悪しき習慣のようにいわれている年功序列は、この年齢だけに着目し、年齢が上がると自動的に賃金が増える<年齢序列>に過ぎない。 (p.32)
 至極、ごもっとも。

 

 

【上場せぬクレイジー】
 父は生前、「いかなることがあっても株式は公開するな」と遺言のように繰り返した。
 投資家というより、投機家のような株主に利益を還元するくらいなら、汗水たらして働いてくれる従業員に報いるべきだというのが父の考えだ。
 私も全く同感である。実際、これまで何度も上場の誘いをいただいたが、その都度お断りしてきた。首を縦に振らない私に業を煮やした、ある外資系の証券会社の担当者に、「ミスター原、あなたはクレージーだ」と言われたこともある。
 上場すれば、創業者一族には大きなメリットがあるというわけで、それをむざむざと袖にするのは正気ではない、と言うのだ。クレージーと言われても、私は贅沢をしたいとは思わない。いまのままで十分である。 (p.34)
 「会社は、従業員のもの」と考えるのは、日本の経営者だけである。
 「会社は、経営者のもの」と考える諸外国では、経営者は株式を公開して莫大な創業者利得を懐に入れるであろう。その結果、会社は国際的な投機機関の餌食となり、従業員は人生を翻弄されるのである。
 《類似》    『耳学問のすすめ』 鎌田勝 (日本実業出版社)
             【給料を要るだけ出す経営日本主義】

 

 

【家族的経営】
 当社は7割が女性社員だから、入社して5年、10年経てば、結婚や出産や子育ての経験をするものもいる。であれば、朝、赤ちゃんを連れて出社し、保育所に預ければ、仕事と両立できる。社員もその子供もメリーの財産なのである。 (p.40)
 女性社員が殆どの資生堂なども、メリーと同様な福利厚生施設を備えている。
 家族と同様に、従業員を大切にする。戦後の廃墟の中で創業してきた経営者は、みなこのように考えていたのだろう。しかし、二代目・三代目になっても初代の志を維持する経営者は、必ずしも多くないのかもしれない。

 

 

【バレンタイン・デー】
 メリーがバレンタインを始めたのは、1958年(昭和33年)    (p.67)
 著者が、日本にバレンタイン・デーのチョコレート文化を根付かせた張本人である。
 ちなみに、バレンタインの起源は、以下に記すものであり、チョコレートとの関係はない。
 西暦273年2月14日、ローマでキリスト教の司祭バレンチノが処刑された。
 当時、ローマ帝国ではキリスト教を認めていなかったため、ローマ帝国の兵士とキリスト教徒の娘が結婚することは硬く禁じられていた。いつの時代、どこの国にもあることだが、恋を禁じられた男女、ローマの兵士とキリスト教信者の娘の間に恋が芽生えたのである。
 法を超え、二人の婚約を認めたのがバレンチノだった。そして聖バレンチノは「愛の守護者」と呼ばれるようになった。    (p.66)
 

【IT化】
 それまで、物流管理に75名もの社員が従事していたが、現在この部門で働く正社員は7名だけだ。
経費が削減されただけではない。一石二鳥、多くの社員を、別部署に振り分けるなど、組織改変を図れた点でも意義は大きい。
 しかも、全国に年間250億円もの商品をここから送り出していながら、棚卸し不明金は20万円以下という信じられない数字を実現することができた。 (p.122)
 IT化による溢れ社員を、削減するのではなく、別部署へ振分ける。
 業績の良い会社でなければ、このような対応は難しいだろう。欧米の会社なら、業績が良くても容赦なく従業員を削減する。

 

 

【情報公開】
 またメリーでは、社内だけではなく、主要取引先との間でも、情報公開に努めている。原料メーカー、あるいは資材メーカーなどの取引先に40日先までも販売予測を公開したり、4ヶ月先といった中長期予測に関しても資料を提供したりしている。
 取引先でも生産計画を立てやすくなり、無駄が省けるようになるからだ。 (p.128)
 情報公開の範囲を取引先にまで拡大することで、全体最適の範囲が社外にまで広がる。すばらしいことである。

 

 

【チョコレート文化】
 日本のチョコレート消費量は年間4000億円とされる。これに比べ、人口では少ないフランスの消費量は、日本の4.6倍。底辺の広さでは勝負にならない。なにしろ、離乳食にチョコを食べる習慣があるのだ。 (p.138)
 2005年には、ロアルド・ダール原作の児童文学を再映画化した 『チャーリーとチョコレート工場』 が全世界的なヒットとなっている。
 ダールらしい、さびが効いた異色メルヘンだが、ここでもチョコレートが子供たちの夢の “シンボル” とされていることに注目したい。
 たまたまチョコレートを “素材” にした映画を目にしたからいうわけではないが、チョコレートには、確かに人々を夢見がちにさせる効果がある。
 われわれも、本物のチョコレートで、日本だけでなく、「世界中の人々を幸せにする」、そんな夢を現実のものとしたいものである。 (p.140)
 日本にバレンタインのギフト・チョコレートを根付かせた方なのだから、きっと新たな文化戦略を考えていることだろう。

   《参照》  『チョコレートの文化誌』 八杉佳穂 (世界思想社)

 

 

【懸念】
 毎朝、大森本社屋上の稲荷神社で会社の隆盛と社員の安全を祈願   (p.45)
 稲荷神社。財を集める霊力に秀でているにせよ、所詮は動物霊である。高貴な神霊のようにはいかない。粗末にした場合の報復には容赦がなく、それ故に潰れて復興できない家や会社は多いと聞いている。
 
<了>