イメージ 1

 1959年生まれ。出版社勤務を経て、22歳で渡米。カリフォルニア山中で夫となる秀雄氏と出会い、結婚、出産。その後、屋久島を経て、奥熊野へ移住、という著者。3男1女の母。
 都市とはかけ離れた自然の中で生活しながら子育てを行ってきた著者の体験談なので、とても興味深く読める。


【アメリカで生活して】
 渡米直後の感想。
 東京では味わったことのない孤独が、沈んでゆく夕陽のように、でっかく、重たく私をおしつぶそうとした。
 アメリカに来たというだけで、自由な気分に浸れたのはつかの間で、ここでは、東京以上に明確な目的意識を持っていないと、容赦ない自己嫌悪と孤独にさいなまれる。言葉が不自由だというだけで、社会参加ができない。そんな自分が、まるで能力のない人間に思えてくる。何人かのクラスメイトは、アメリカの横顔をチラリと垣間見ただけで、すぐに帰ってしまった。 (p.35)
 これと同じ思いを抱く若者たちは大勢いるが、これを正直に語る若者は少ない。
 都会志向の著者だったけれど、京子さんと言う友達に誘われて電気もガスも水道もないエルクバレーという所で生活している人々の村へ行き、一泊した。
 私は京子さんと山に残ることにしました。生まれて初めて味わった、圧倒的なこの静けさのなかに、もう少し浸っていたかった。 (p.45)

 

 

【人間の本来】
 著者は、スーツケースの中身をサンフランシスコで全て売り払い、カリフォルニアの山中に入り込んで行った。そこで、自分自身の命が輝きだす感じを持ったのだという。ヒデさん(旦那様)に出会い、医師などいない山中で出産した後のこと。
 翌日、ヒデさんは血をたっぷり含んだスポンジのような胎盤を、流水でていねいに洗ってレバーの血抜きよろしく何度も湯がいてアクをすくうと、しっかり湯通しして細く切り、生姜醤油に漬け込んだ。「胎盤エキス」という貧血の薬があるが、胎盤はタンパク質や鉄分が豊富な産後食だよ、とセイカに言われ、産後は毎食のようにこれを食べさせられたが、自分の肉を喰っているようで苦しかった。 (p.79)
 この付近の記述を読んでいると、より自然に溶け込んだ存在としての人間は、つまり “動物の生態に近くて当然ではないか” という思いに至る。そのようにして生きていると、スピリッチュアルな感覚が目覚めてくるらしい。
 出産時に、体の生理に連動する心の変化を経験しながら、著者は重要なことを知ったと書いている。
 アメリカで生まれた二人の男の子は、インスピレーションによって名前をつけたという。

 

 

【子供たちの未来のために】
数年に渡るアメリカ生活を経験し、再び日本への帰国を決断する直前の記述。
 日本人は気の民族だ。言葉にしなくても互いに伝わりあう思いや、気を大切にして生きてきた。すべてを言葉にして物質化しなくては認めない、西洋的な考え方とは根本的に違うんだ。・・・(中略)・・・。
 アメリカで生活するうちに、今まで見えなかったアメリカが見えてきた。心の病、凶悪犯罪、家族崩壊、現代社会の末期症状を示すアメリカは、5年後、10年後の日本の姿だ。
 太古から脈々と受け継がれてきた民族の智恵を失い、根無し草になった人々がすがるものは物と金だった。宗教も政治も文化も、その本質である、たましいを失って、人間は何を信じて生きていったらいいのかわからなくなってしまう。・・・(中略)・・・。
 このままではいけない。子供たちの未来のために、私たちに何ができるのだろう。 
 人が生きていくことの本質を、ヒデさん(著者の旦那様)は農の道に見出した。 (p.141)
 “太古から脈々と受け継がれてきた民族の智恵を失い、根無し草になった人々がすがるものは物と金だった。” という記述が現在の世界の実態を鋭く指摘している。

 

 

【都市環境が子供を優秀にするのではない】
 日本の熊野山中に住居を移し、4人の子供たちを育ててきた著者。最後に4人の子供たちのことが記述されている。生まれてからずっと、奥深い山中で育てられて子供たちは、いずれも賢く優しく優秀な子供たちだ。
 桜花は、心の優しい女の子に育ってくれた。母親の私よりずっと母性の強い子で、テレビのニュースで知った行方不明の女の子の無事を、毎日、真剣に手を合わせて祈っている。将来は医者かカウンセラーになって、苦しんでいる人を助ける仕事がしたいと思っているようだ。 (p.194)

 

 

【生きることの真理】
 今、私は胸を張って言える。生きることの真理は、愛することだ。人を愛し、生きとし生けるものすべてを愛し、地球を愛して、そして自分自身を愛してあげること。人は愛しあうために、この星に生まれてきたのだと、子供たちは私に教えてくれた。
「光りの道を行きなさい」
 そう、宇宙はきっと味方してくれる。胸の真ん中に青い地球を抱いて、旅は続く。 (p.197)
 
 

<了>