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 内容とタイトルのよくマッチした小説だ。漢方医学に関してそこそこ勉強になるし、読んでいて楽しい。
 青い横帯に書かれている記述も、この小説の中身を的確に表現している。

 

 

【病名は?・・・・】
「で、結局、私は何の病気なんでしょうか? もっと分かるように教えてください」
先生は水銀の示す血圧値を見つめながら答えた。
「川波さんは、腎、肝、などが弱いんです」
「あの、漠然としたことではなくて、病名はなんなんですか?」
先生は、私を見て一瞬黙ったが、答えた。
「ない」
イスから転げ落ちそうになった。放送作家時代に私が書いたコントに出てくる医者だって、ここまでボケなかった。
「というか、いらない」
私はバッグに手を伸ばして荷物をまとめようとしたが、ボケ医者は続けた。
「前の先生が話しませんでしたか? 東洋医学の場合、病名ではなくて 『証(しょう)』 がその代わりをしますから」 (p.49-50)
 こんな感じで、小説を読みながら漢方医学が楽しく学べてしまう。

 

 

【カッコいい漢方医】
 主人公の女性(川波さん)の想定年齢は31歳。
 失恋中で、坂口先生という漢方医学のお医者さんに、チョットのめりこんでいる。
「川波ちゃん、例のカッコいい漢方医のとこに、まだ通ってんの?」
「ああ、聞いちゃダメそれ」
茜ちゃんが遮ったが、私は乙女のようにツキンと胸が痛むのを感じながら、ドスのきいた声で言った。
「もういない。中国に帰った」
 みんな冗談に思ったようだが、本当に坂口先生は昨年で診療所を辞めて上海の病院に行ってしまった。
「ハーフかぁ。言われりゃ、ソース顔でも、オイスターは入ってたかも」
 私が言うと、おっさんが両手をあげてはしゃいで言った。
「やっぱ中国人じゃん! オレ最初にいったよな、中国人に惚れたのかって。言ったよな? 覚えてる?」
 おぼえてねぇよ。何がそんなに嬉しいんだ。  (p.133-134)
 こんな感じで、周囲の人々とかわされる会話がおかしい。
 結論。
 楽しい小説です。
 
<了>