イメージ 1

 この本では、主にアメリカ社会を中心に、諸外国の道徳と、日本社会の道徳を、経済の視点で比較している。
 共同体社会における日本人の「道徳」の高さは、近年、綻びが見えているとはいえ、世界の中で見れば、圧倒的に秀でているのである。日本人が、そのことを自覚していないだけである。

 

 

【アメリカ社会 と 気骨ある日本人男性】
 昭和20年代に、アメリカに留学しエール大学とハーバード大学からそれぞれ1年で学位を得た人がいた。羽澄光彦さん(故人である)という。
彼に、「羽澄さんの頭がいいのはかねて知っているが、なぜそんなにトントン拍子にうまくいくのか。アメリカの学生は頭が悪いのか?」と聞いた。
「アメリカ人は忙しいんだよ。週末のダンスパーティーのためにガールフレンドをつくらないといけない。それも男としての序列と、女としての序列のバランスが取れていないといけないから、彼らはそこに膨大なエネルギーを注いでいる。それからアメリカはコネ社会だから、就職のために先輩をまわって売り込みをしないといけない。」
 著者は、羽澄さんのことを書いたのは、海外で得た学位を自慢したがる最近の日本人に対して、目標の高さが足りないからだと言っている。つまり “日本という国家に関わっての気概が無い” と。
 一週間ほど前に、『失敗の教訓』 という日下さんの本をブログに書いたけれど、その中でも、「エリートとは」と書いていた。日下さんの世代の方から見れば、現在の日本人はよほど “歯痒い” のだろう。
 ところで、対米という立場で活躍してきた人々に、「彦」という名前の男性が多い。羽澄光彦さんもそうだし落合信彦さんなど他にも何人かいる。言霊上は、“姫(秘め)” に対して “彦(霊固)” であり、日本人男性(ニッポン男児)に相応しい名前なのである。

 

 

【安定した共同体を作れないことの末路】
 2000年もメンバー固定制で暮らしてきた日本人は、何事もほどほどがよいと知っている。多神教だから、断定したりドグマに執着したりしない。
 敵と共存共栄する。――― 日本には歴史に裏打ちされた叡智がある。けれどもマルクスにはなかった。マルクスの考えをその通りに実行したレーニンやスターリンは、やはり滅びている。共同体をつくれない思想は、長く繁栄しない。
 アメリカといえども、その例外ではないだろう。 (p.144)
 欧米は、文化的に略奪が普通なのであるから、食うか食われるかの畜生の世界で、強者を目指すだけである。共存共栄が普通の日本人は、共産主義やグローバリズムすら共存させてやっている寛大さがある。だからといって 「馬鹿も休み休みにしようぜ」 ってすら思ってない日本人は、本当にどうしようもなく限りなく果てもなく “お人好し” である。
 韓国も王朝の子孫を連れ戻して、国民がまとまるよすがにすればいいと思うが、それはしない。韓国には日帝支配三六年を問う根強い反日感情があるが、それなら退位した皇帝を元に戻すべきだと思うが、そんなことは考えない。自分が大統領になりたいと争うばかりである。 (p.179)
 韓国は既に、IMF管理で長く繁栄できない実例を示した。トップ受難社会を維持する「恨」の国民意識は、永遠に韓国を繁栄から遠ざけることになる。
 規則やルールを平気で破るのは、自分の属する共同体と、その他の社会との規範が違うとき自分を優先するからである。もちろんこれでは、海外と取引できない。だから中国経済は一本調子で進むはずがない。これまでの成功は日本人が格別に親切だったからだと気付く必要がある。 (p.184)
 中国も過去の歴史の中で安定した共同体を造った事例はないし、ないからこそ共産主義の手法を取り入れているのである。先は見えている。


【ロス大地震で、なぜ韓国人街は襲撃されたか】
 アメリカでタクシーに乗ると 「お前はコリアか、ベトナミーズか、ジャパンか」 と聞かれる。日本人だと答えると、運転手は安心して雑談を始める。車中、よく聞かれるのは 「コリアと取引すると必ず損をするが、日本人は必ず儲けさせてくれる」 という話で、それが小さな店を開いているようなアメリカ人たちのあいだでの評判だった。 (p.174)
 韓国人のモラルの低さを、実は私も痛烈に経験している。だから、比較文化に何の見識もない一般の韓国人や日本人が、「日本と韓国は文化が似ている」 などと言うのを聞くと、内心はかなりムカついている。
 こんな韓国人でも中国人はさらにその上を行く。日本のアパレル業界は安い中国製品を仕入れようとしても、騙されることが繰り返されたため、今では韓国の企業に仕入れ委託しているそうである。全損よりは仲介料を払う方がマシということなのであろう。
 そんな仲介をしている韓国企業の社員に会って話を聞いたことがある。「中国の企業が納期を守らないので、事情説明するために日本に来ている」 と。

 

 

【日本人は「正直」を無言で教える】
 アラブ人は 「(日本人は) 商売の根本は正直にあることを教えてくれた」と述懐する。・・(中略)・・長い時間が立ってみると、正直な人は日本相手の取引で金持ちになり、従来どおりのやり方を続けてきた人は、今もアメリカやフランス相手の食うか食われるかの商売をしていると言うのである。 (p.191)
 このような事例は、香港でも同じである。日本の商習慣が世界に広まっていった、ダイエーの事例である。
 「自分がいま香港へ行くと大歓迎されるが、それは別に対日感情が変わったわけではない。日本の指導についてきた人が成功して、主要ポストに上がったからである」 と、学者には言えない名言を教えてくださった。「人間の入れ替えがあった」 とは統計やデータには出てこない話である。
 つまり香港の取引相手は 「日本化」 した。(そうすることで)彼ら自身も儲かった。 (p.195)

 

 

【ミャンマーに及ぶ中国の深謀遠慮】
 中国奥地で採掘された石油の搬出に関して、中国はこんなことをしている。
 すでに、ミャンマー南端のインド洋に海軍基地を借りて、雲南省から軍用列車が走っている。ミャンマー政府に援助し、テレビ番組は中国ものだらけにして籠絡している。国民は着々と中国びいきになっていく。ミャンマーというと、日本のマスコミは一つ覚えにスー・チーさんばかりを取り上げるが、中国の深謀遠慮が形と成って現れている国である。 (p.206)
 この文章の後、日下さんは、「軍事力を考えない経済学」では国家戦略は立てられない、という内容の文章を続けて記述している。

 

 

【日本が軍事力を持つ意味】
 肝心なのは、日本人が「無礼はゆるさん」という意志を持つことで、精神的に去勢されているから、とめどもなくしゃぶられる。ソビエト崩壊前モスクワ大学へ行くと「日本などしゃぶっても、踏み倒しても、何をしてもいいのだけれど日米安保があるから無茶ができない」と教授方が言っていた。中国も同様である。
 平和第一主義はよいが、非武装中立は実行できないし、アメリカ一辺倒ではアメリカからしゃぶられる。
 たしかに武力なしで友好親善が実現すれば理想である。だがこの理想の実現は、両方がよほど知的でなければ成り立たない。こちらだけ道徳が高くて知的なのではダメで、相手も同じレベルであることが大前提となる。 (p.210)
 8月15日の夜、NHKで憲法9条に関して討論会をしていたけれど、護憲側の意見を言っていた良識的な日本人が気付けていない点がこれであろう。
 
<了>