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 歌舞伎という芸事の世界を背後から支えている方の著作なのだけれど、歌舞伎など全然知らない一般人が読んでも面白い。
 しかし、単に面白いというだけではない。無駄な記述のない冴えた文章表現ゆえに、直接経験していない読者に、その時、その場における、その心境がはっきりと伝わってくるのだ。並みの小説より遥かに優れている。しかも、賢明な女性が読むならば、人生についてこの本から学べる点はとても多いはずである。


【凛とした書物】
 最初から最後まで、空気の冴え渡った高原を歩くような気分で読めた本である。凛とした芸事の世界に生きている人だから、精神が常にそのような境地にあるからなのであろう。
 そんな文章全体の中で、特に最初の松本幸四郎さんとの出会いから結婚までの場面には馥郁たる雰囲気を感じ取れるのだし、染五郎襲名に関するくだりでは芸事世界で生きる人々の歩みに心打たれてしまったのだし、家族の様子を書き連ねている最後の部分では感動してしまった。
 そんな私を明日も元気に働かせてくれるのは、立ち止まらず次の瞬間の輝きを目指す、向こう見ずなまでにまっすぐな人たち。
 すなわち、松本幸四郎一家の人々なのだ。 (p.153)
 
 高麗家という屋号の由来については何も書かれていなかったので分からないけれど、
            【漢民族を飛び越えた日本とモンゴルの類似】
 そんなことはどうでもいい。
 高く麗しい読物の読後には、いろいろ書きたくないものである。 
 
<了>