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 読書感想文全国コンクールの課題図書だという。だから読んだわけではない。犬が昔から好きだからだ。小学生の時、ページをめくって飽かずに挿絵を見てばかり (決して読んではいない) いた 『シートン動物記』 以来、何十年ぶりで動物が主役のノンフィクションに出会えた。

 

 

【ほとびる】
 クマたちは夏の間、草を食べ続けて、木の実がなる秋をじっと待っている。だから、夏に見るクマは頬のニクが削げ落ちて、野生の鋭い目がほとびた葉かげから光っている。そんなクマに会いたくて、私は沢に入った。 (p.32)
 これを書き出したのは、夏に痩せているというクマの生態が意外だったこともあるけれど、本当は 「ほとびた」 という日本語の意味が分からなかったからだ。
 辞書を引いたら、「潤びた」 と出てきた。これなら意味は分かる。しかし仮に漢字で書かれていたら、今度は読みかたが分からなかったであろう。「潤う」 は読めても 「潤びた」 は読めなかった。今日も一つ日本語の読み方を覚えた。バンザイ。

 

 

【早食い】
 犬の食事の始まりは終わりの始まりで、一五秒で終わる。 (p.52)
 人間とワンコを比べれば確かに犬のほうが早いけれど、人間だって早い人がいる。戦前、戦中、戦後世代の食糧難時代を逞しく生き抜いてきた大人たちは、信じられないほどに早食いである。私はそれを眼前で目撃してかなりビビッタことがある。とうてい噛んでいるとは思えない早さである。犬にだって勝てそうな速さだった。しかし、早食いができるということは胃腸が丈夫という証拠だから、成功者の条件として挙げられている場合もある。
 私の知っているワンコは、どれもおっとりしていて、決して食べるのが早くない。生存競争に晒されていないと、人間もワンコも胃腸ですら弱体化してしまうのかもしれない。

 

 

【米田と共に】
 熊追い人がクマの糞になったら絵にならない、と友人たちは笑う。糞という字を分解すると、米田と共にと書くから、なおいけない。 (p.97)
 著者の名前は米田さんであるから、このジョークが成り立つ。
 私は、糞 = 米 + 異 、と覚えた。お米が主食だから。
 糞 = 米 + 田 + 共 、と理解することもできる。この場合は、昔の循環型エコ・サイクルになる。

 

 

【この本の印象】
 この本の印象を強くしている箇所の殆どは、熊追い人の著者とクマ追い犬タロのかかわりを描いている部分である。しかし、私はその部分をここには一つも書き出してはいない。短い書き出しではどうにもならないからだ。
 タロを訓練する場面での、著者の容赦のない有様に息を呑んだり、タロが共に暮らすようになった若い犬たちとの交流の様子に頬が弛んだりする。そして、老いて歩けなくなってゆくタロを描いている部分は、どうしたって涙なしに読めるものではない。
 
<了>