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 副題に書かれているように、著者は、日本に帰化した朝鮮人ですが、福島県白河市という地方の名士(白河ロータリークラブの会長)でもあったようです。


【著者の経歴】
 日韓併合時代に日本にいた韓国人を両親として、1929年に日本で生まれ、2歳から15年間、韓国で生活する。17歳で来日(密入国)して、建設業者としてビジネスを成功させる。1978年に日本に帰化。
 様々な差別を経験しながら、日本で生き続けて成功してきた著者の本です。日本人よりも、現在日本で生活している韓国人が読めば、就職に関する問題点など、様々な点で参考になる本でしょう。


【一人の人間として】
 日本人か、韓国人かが問題ではないのです。本当に大切なことは、一人の人間としてどうあるべきかということではいだろうか。 (p.99)
 国家とか民族とかの視点を介在させることで乗ずるマイナス側面から離れて、全く別の視点、即ち、「一人の人間」 という視点で生きてはどうだろうか。そう語っています。それさえできれば、日本は人間としての信用を大切にする国ですから、どの国の人であれ、誰でも日本社会に溶け込んで生活できるのです。


【ロータリークラブ】
 日本の各都市には、ロータリークラブがあります。社会的に地位の高い人々が集うクラブです。著者は白河ロータリークラブの会長もされていたようです。
 私は千葉県の市川ロータリークラブに縁のあった留学生30人ほどと、山崎パンの工場見学をさせていただいたことがあります。その時は、全員に大きな袋一杯のパンや和菓子のお土産を頂きました。お店で買えば5000円近い額のお土産を頂いたのです。そして、工場から最寄りの駅までの行き帰りは、会社のバスで送迎してくださいました。
 工場からの帰り、留学生がバスに乗り込み、バスが工場の門を出ようとした時、日本人の私としてはバスの窓から振り返って山崎パンの皆さんに会釈で感謝を示すのが普通のことなのですが、留学生達ははしゃいでいるだけで、誰ひとり 「ありがとうございました」 の会釈をしそうな素振すらありませんでした。そんな留学生を乗せたバスが視界から消えて見えなくなるまで、山崎パンの責任者の方は頭を下げて見送ってくれていました。
 留学生たちは、日本の経済力を学びたいと思っているようですが、その経済力を創出している、「日本人の人間としての美しい行為」に注意を払うことはありません。
 中国や韓国の経営者のトップが、工場見学に来た留学生に多量のお土産を持たせてくれて、工場の敷地から見えなくなるまで留学生に対して頭を下げて見送ってくれることなど、決してないでしょう。しかし、日本の経営者は、中国や韓国の経営者とは根本的に違うのです。
 日本が優れているのは、工業の技術力やアニメなどに現れている文化力だけではありません。大手企業トップの人間性が抜きん出て優れているのです。私はそう思っています。
 この本の著者も、白河という地方のロータリークラブの会長さんをされていた方ですから、並の日本人である私たちなどより、遥かに素晴らしい人間性の方なのでしょう。


【誰のためでもなく】
 この本のタイトルですが、副題には、「韓国系日本人」として生きる、とあります。政治問題や民族問題を背景にしながら、生きてゆかねばならない環境にあるのは、著者ばかりではありません。著者と同時代に、アメリカで強烈な差別を受けてきた日本人も数多くいるのです。
 「誰のためでもなく」という一文は、この本の著者のみならず、世界中の異文化環境の中で生きている人々が、心の底から思える唯一のセンテンスであるように思います。

 

<了>