「エグザイルス」、即ち、放浪者たち、流浪の民・村八分の人間・アウトサイダー・・・などの意味を含んだ言葉である。これも 「自分探し」 の旅であろうか。
著者はFMジャパンのナビゲーターをやっていた(る?)という。世界中を放浪してきた著者の人生の記録である。藤原新也や沢木耕太郎の書籍とは、似ているようでやや趣が違う。それは、著者がアメリカ人とのクオーターであることと、文学に向ける熱意の違いに起因しているように思えた。
大学生時代にこの本に出会えていたら・・・と思えて仕方がない。共感できる。魂が近い。そう思える本だ。
【カトリック系男子校】
著者は、横浜の山の手にあるカトリック系の男子校に通っていたそうである。
教師達は学習よりも布教に力をいれ、生徒達のオナニーに異常なまでに関心を示した。寮生活をしていた生徒達は、マスターベーションの回数を問われ、そしてその回数だけ、風呂場で裸の尻打ちを受けていた。 (p.33)
ここに記述されているような映像を、『リトル・ランナー』などの、少年が登場するイギリス映画の中で何回か見たことがある。ユニークな伝統と理解しておけばいいのかもしれない。
【ザルツブルグで留置場】
「バスキング ナイン(流し、ダメ)」と言われて留置場にぶち込まれてしまったとか。アマデウス・モーツァルトの故郷ザルツブルグでは、道端で歌を歌うのはご法度だそうである。 (p.74)
【イラン : ベンツの紳士】
ヒッチハイクで乗った紳士のベンツ。砂漠の真ん中で車を止めて、「200ドルでやらせろ」と言われ、断ったら砂漠に置き去りにされたそうである。そこで「高級車のヒッチハイクには気をつけろ」と言われていたことを思い出したとか。 (p.87)
世界は広い。映画の中のような状況が、現実に起こっているらしい。いや、現実に起こっているからこそ映画になるのである。旅専門のエグザイル達は、この本を読んでおいたほうがいい。
【インド : カルマの世界】
「でも、インドを離れてよかったよ。あそこに長くいると道徳的感覚が麻痺して来るんだよ。何でもカルマ(業)のせいにしてしまってさ。『これもカルマ』、『あれもカルマ』 ってね。彼らの答えはすべてそこにあるんだよ。何に対してもね。それでだんだん、自分もそう考えるようになって来るんだ。・・・そして気が付くと道徳的破綻者になっているんだ」 (p.101)
【恋】
「オレは恋をしているんだ! 生きているってことは素晴らしいんだ」 と何回も叫んだ。友達やクラスメートや、道で出会っただけの他人に対してまでも、今までの僕にはなかったような優しさ、愛情を感じるようになった。愛とは人間の人生観も、世界観も、一瞬のうちに変えてしまう力をもっているものなのだと、その時つくづくと感じた。 (p.144)
これは、エグザイルたちの一つのターミナル・ポイントになるように思う。
カーペンターズの 『 I need to be in Love.』 を好んでいながら、恋したこともなく、心の外の旅ばかりを選択してきた放浪者は、旅の視点を心の内側、即ち 「恋」 に移行すべき・・・かも。
【ロニー】
著者の弟である。分裂症で死んでしまう。自殺未遂の場所は飯田橋の陸橋。 (p.240)
私が通う映画館のある場所だ。この場所を頻繁に通っているので、生々しく想像できてしまう。家族が崩壊してしまった著者はこれ以降、再度、心に内側に向かう旅を始める。
【プライマル・セラピー】
著者は、オーストラリアでこのセラピー生活を始める。
そんな中で、一冊だけ目に留まった本があった。アーサー・ヤノフというアメリカの心理学者か書いた 『プライマリー・スクリーム』 という本である。 (p.258)
私も同様である。この本を読んで、とても良く分かる気がしたのだ。『原初からの叫び』(講談社) として日本でも手に入れることが出来る。著者は、記憶違いでなければジョン・レノンのセラピーを担当してもいたはず。私の経験では、いかなる心理学書よりこの本が一番優れていると思う。
言うまでもなく、このセラピーは劇的な精神のオーバーホールのようなものだ。オープンになった人間は子供のように無防備な状態になる。だから僕達は仲間同士励ましあい、かばいあい、・・・ (p.289)
意識の深い層にコンタクトするからには、セラピーだけではあぶないことがある。霊的な対処方法を持っていないと危険である。真言密教はこのようなメカニズムを知っていながら、実は、霊的な領域で絶対確実に対応できる方法を持ってはいない。
【サロン : エグザイルス】
プライマル・セラピーで心をオープンに出来た著者は、シドニーでカフェ・エグザイルズという、書籍を並べたサロンの運営を始める。この部分を読んでいて、「その時その場に参加してみたかった」 と思ってしまう。現在は既に閉鎖されている。
チリの英雄、ビクトル・ハラの話など、この本を読むことがなければ永遠に知らずに終わっていたであろう。ポリスに関する冗談のような話とか、このサロンでの出来事の部分は興味深い事だらけである。いちいち書き出していてはきりがない。
【英連邦の地名】
この本には、サロンのあったシドニー内の地名がいくつも出てくるのであるが、ロンドンの地名と殆ど同じである。オーストラリアもニュージーランドも、同じ地名ばかりなので、国名を先に明確にしておく必要がある。香港の主要部分も同様である。
<了>