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 書店で背表紙を見たとき、タイトルと著者名が結びつかなかった。濤川さんは、教育問題の専門家だと思っていたので、芸能人を題材にこのような本を書いているとは、とうてい思えなかったのである。御二人は、湘南を地盤とする旧知の仲だったらしい。


【石原裕次郎】
 裕次郎の死は、どう見てもある意味では爆死である。走って、ひた走って、爆走して、夢を見て、省みて、進んで、ロマンを追って、より大きく、より高く、「より・・・・・・」 を常に志向して、仕事に燃え続けた男だった。 (p.96)
 世代が違うので、チャンちゃんは裕次郎さんのことを殆ど知らない。映画すら見たことが無い。「太陽族」という言葉を知っている程度である。
 高校生の時、読んだ『青年の樹』や『おおい雲』が、裕次郎さんのお兄さんが書いたものであったことを、それから、10年以上も経ってから知ったほどである。石原慎太郎さんの2つの小説に描かれていた世界が、チャンちゃんにとっての「太陽族」のイメージ認識である。息絶え絶えの「月族」として生きていたチャンちゃんに、太陽の光を射し与えてくれた重要かつ貴重な小説だった。


【「燃え」 と 「萌え」】
 燃え続けた太陽族、という文字を打ちながら、最近の若者は、「燃え」から「萌え」に変わってしまっていることに思い至ってしまった。「燃える太陽族」 から 「萌えるオタク族」 なのか。日本を衰退させる表われではなく、萌芽としての「萌え」であることを願うのみである。


【裕次郎と宮沢賢治】
 裕次郎さんは、争いを嫌い、誰に対しても優しさに満ちた人物であったそうである。ルサンチマンの世界を見通していた慧眼の持ち主として、著者は、裕次郎さんと宮沢賢治を並べている。


【ビートルズの長髪】
 「なぜ長髪を・・・?」 の質問があったとき、ジョン・レノンは答える。「リバプールに居た、売れないころの苦しいことを忘れたくないんです。床屋へも行けなかった頃を・・・・・」 彼は若い頃、つっぱっている時期があった。不良っぽいこともした。しかし、音楽が好きでたまらず、やはりそこにおちこんでゆく。(p.188)

 著者は、裕次郎さんだけでなく、似通った魂を持つ、ジョン・レノンにもレクイエムを捧げている。

【教育者・濤川さんの視点】
 私は教育カウンセリングを過去3万件ほどやらせてもらった。その中で刮目したことがある。子供がスランプから立直る時、 “母性を吸収している子ほど立ち上がる自己の回復力の起爆力が強い” ということ。そして、 “父性原理を吸収している子ほど、伸びる時の勢いが強い” ということ。母性原理は “慈しみ” 。父性原理とは、“競争原理”、“きびしさ”、 “誇り” であろう。社会教育といっても、いかに親に負い、家庭教育に負うところが大きいか、ということを教えられる。 裕次郎が、なぜあまりに颯爽としていたかを想う人は多かろう。やはりそれは、“現実に根をおろしている” という生活実感でこそあったのであろう。 (p.135)

 濤川さんは、素晴らしい本を沢山書いている。『日本人の生き方』(文芸社)、『幸せになる生き方のヒント』(文芸社)、『抱きしめる教育』(サンマーク出版)、など、誰だってためになる。


【運】
 人はよく裕次郎を評して、「彼ほどの幸運児はいない」 という。ただ、一考しなければならないことがある。「運」とは、シンニョウに軍(いくさ)と書くということ。どんなに幸運・良運に恵まれようと、悪運を転換しうる努力なきところ、幸運の命運は尽きる。 (p.231) 

 

<了>