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 チャンちゃんにとっての必読図書の条件があります。それは、「著者が、日本に10年以上住んでいる外国人、または、海外に10年以上住んでいる日本人」 という条件です。この本は、その条件に十分すぎるほど当てはまっています。
 1913年生まれで、英語のできる芸者、また要人の通訳として活躍し1956年に渡米した著者です。日本文化を知悉しアメリカに50年近く住んでいる著者ですから、興味深い内容が多すぎます。捨てに捨ててごく僅かな部分を書き留めざるを得ません。


【日本とアメリカ、住みやすいのはどっち】
 ひと昔前まで、日本の特徴を語るのに、「水と安全はタダ」 という表現がありました。しかし、昨今は警備会社が大繁盛するくらいですから、安全がダダとは言えなくなっています。そして、水に関しては、ペットボトルで買うことが多くなり、そもそも水道料金は昔から払っていました。ニューヨークでは水道料金はないそうです。
 また、日本では一律に消費税がかけられますが、ニューヨークでは食料品には消費税がかかりません。著者は、日本人に、「(高齢になったから)日本に帰りたいでしょう」 と頻繁に言われるそうですが、全くその気はないそうです。日本の政治は生活者の視点で考えられていないそうです。特に高齢者が活き活きと生活してゆくために、提供されている行政サービスの違いは大きいようです。


【着物の効用】
 私はうちにいる留学生の子と外出するときは、できるだけきものを着せるようにしています。ふだんから着物をきると、自然にたおやかな所作が身につくからです。また、着物を着た女性には、アメリカ人の態度がまるっきり違います。ジーパンをはいてウロウロしていると、「ヘイ・ユー」 呼ばわりされるのが、和服をきてレストランに入るとウエイターが恭しく椅子をひいてくれるのです。 (p.32)



【見栄、面子、お義理】
 現実生活を営むアメリカに、見栄、面子、お義理はありません。日本の結婚式では、贈るものも受け取るものも、相手の必要性に関わりなく、見栄、面子、お義理で用意されます。テーブルに並べられるものの過剰さも、実質的か否かという視点で見てみれば、あきらかに見栄、面子に思えてきます。
 建国から200数十年のアメリカと日本の文化比較という視点で見れば、見栄、面子、お義理も日本文化だから仕方がないとはいえ、現在の一般人の生活力で見栄、面子、お義理を維持してゆくのが困難なのは目に見えています。


【築地川 : なつかしい江戸文化はどこへ・・・】
 築地から品川のお台場まで、築地川が流れていたそうですが、現在は埋め立てられて高速道路になっているそうです。芸者をしていた著者は、このことがゆるせないようです。
 毎年11月には、関西と関東の歌舞伎役者が揃う顔見せ興行が行われていますが、戦前は、関西から来た役者は、船に乗り込み築地川を下ったのだそうです。この記述から始まって127ページ以降には、現在の若者の知らない江戸文化の流れにある世界のことが書かれています。おそらく映画の、『サユリ』 に描かれているような雅な世界の裏に在る、識者でなければ語りえぬ “粋” な文化世界です。
 芸者さんって、娼婦ではありません。日本文化を体現する深い教養に裏打ちされた職業だと思います。岩崎峰子さんの 『祇園の教訓』 (幻冬舎) や 『祇園の課外授業』 (集英社) などの本を読んでもそのことは分かります。
 映画『サユリ』などに触発されて、芸者を目指す若者が増えるように思います。PCゲームやアニメなど、子ども向けの日本文化が世界に広まりつつある現在ですが、これらに影響を受けた海外の若者が長ずるに及んで、感嘆する次なる文化は大人の日本文化です。現在の日本の若者が、江戸文化に回帰して、まもなく、雅で粋な世界を体現してくれることでしょう。
   


【言葉は気持ちひとつで変る】
 「私たちの世代ならみんな知っているような言葉を、若い人が知らないんです」 (p.158)

 と著者は、慨嘆しています。そのために、『喜春流 味なことば』(講談社) という本を書いたそうです。

 「まずきれいな日本語を話そうとすること」 (p.160) 
 汚い言葉、乱暴な言葉を使っていると、言霊に導かれて、汚い世界、乱暴な世界を引き寄せてしまいます。親も教育者もそんな言葉使いをしている若者をたしなめられないようなら、日本文化の雅さ、たおやかさは、いずれ、博物館行きになってしまいそうです。


【流行は自分が作るもの】
 著者が属していた花柳界は、最も保守的と思われていたけれど、実は一番新しい、流行の先端を作っていたのだそうです。なので、ブランドものに群がる日本人の有様に興ざめしているようです。
 気概も教養も無い人々がブランドに群がります。そんな女のために、ブランド物を買うべく行列に並んでいる男を見たら・・・呆れてものも言えません。でなきゃゲラゲラ笑い出してしまいます。

 

<了>