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 この書籍は2005年6月に出版された書籍です。これより先に出版された『中国の深層』と多くの部分が重複していますが、『中国の深層』に記述されていた危機的様相を、より具体的な事実で補足している内容でした。


【中国共産党・崩壊後の予測】
 アメリカ合衆国のような、中央集権型の「統一国家」になるのか、それともソ連邦、解体後のような「中小の独立国」が乱立するのか。著者は、後者になると記述しています。 (p.37)


【共産党一党独裁体制が植えつけたモラル・ハザード】
 台湾のビジネスマンが言うごとく、中華民族の古きよき伝統、すなわち「信義を重んずる」という伝統が、中国大陸では完全に消滅してしまった。 (p.44)
 このモラル・ハザードが、「上に政策あれば、下に対策あり」とする国民性をより強固なものにし、拝金主義、一攫千金の投機的気質から、権力を行使した企業経営の腐敗へと至り、当然のごとく公害を垂れ流しつつ、中央の統制から外れたマクロ経済無計画状態になっており、低品質製品の過剰生産が自らの首を絞めつつある状態に至っているという。
 ソ連解体後の独立諸国や東欧諸国が、現在でもまともな経済状態を創出できていない実情を読んでいると、共産主義が植えつけたモラル・ハザードは、その政体から脱しても、将来に渡って、かなり深刻な影響を及ぼすことは避けられないようです。


【建設業における基礎資材の乱費】 
 香港から高速艇で1時間で行けるマカオ。ここには台湾に似た街並みの旧市街があります。このマカオの南にはタイパという空港施設のある島があり、マカオ・タイパ間には海上に長大な橋が3本も架けられています。そして3本のうち機能している橋は最も西側の1本だけです。この理由、しいて説明の必要はないと思います。
 また、タイパ島には、40階建てのマンションが乱立しています。珠海工業デルタの後背住宅地として建設されたのでしょうが、マカオ・タイパ間を運行するバスは、なんとマイクロバスなのです。マンション周辺の食堂や通常店舗は、想定居住人口規模から見て極端に少なく、営業していても閑古鳥状態でした。
 日本でも、住宅・都市整備公団がデタラメな建設をやってきたことは周知の事実ですが、そのデタラメぶりにおいて、タイパ島の事例だけから見ても、中国は圧倒的に勝っています。(2005年9月のチャンちゃんの現地体験から)


【野放しの公害と環境の悪化】
 世界文化遺産が集まっている、日本人に人気のある蘇州。ここから杭州へ運河を航行する船で行ったことがあります。宝帯橋などの景色を眺めながら、川面から立ち上ってくる臭いが鼻を突く異臭でした。釣り人や漁民らしき人々など当然のことながら一人も見ませんでした。水質汚染による被害者は何十万人、いや何百万人でしょう。(2002年3月の現地体験から)
 建設バブルの過剰需要を満たすために、公害対策を一切施すことのない小規模な鉄工所が、中国国内には多数存在し、深刻な煤煙公害を撒き散らし、住民や農耕地にまで甚大な被害を及ぼしているそうです。
 


【『公の精神』の大切さ】
 台湾の李登輝・前総統が、「私が日本から学んだ最も大切なことは『公の精神』です」、と書いていたのを思い出します。1949年に、五星紅旗を掲げて、中国共産党が一極支配する中華人民共和国が建国されてから、57年。この間に、文化大革命で多大な死者を出した恐ろしさもさることながら、共産党一極支配の本当の怖さは、「モラルの破壊」に違いないと、この本を読みながら改めて思いました。


【屈原が生きていたら・・・・・】
 政治を諌めて聞き入れられず汨羅に入水した屈原。その汨羅のあった洞庭湖は、揚子江の調節池として機能していたのですが、その面積はかつての25%ほどに縮小してしまっており、現在では洪水の調節地機能は失われていると書かれています。
 屈原が現在に生きていて、中国の国政を諌め、ついに入水を選ぼうにも、入水できる環境すらなくなりつつある現在の中国のようです。さながら、「屈原、汨羅に立ち尽くす」 と言った処でしょうか。


<了>