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 人類学的考察を期待させるタイトルです。しかし、その期待に副う記述は、インドでの体験が記述されていた序盤だけでした。それ以降は、石油に関わる国際政治の裏側に興味のある人々や、世界各国の新たなエネルギー対策に興味のある人々向けの内容でした。


【ライス女史】
 ロシア問題の権威であったライス女史は、米シェブロン社の社外重役として、カザフスタンのテンギス油田開発で実力を発揮した人物である。先代ブッシュ政権ではソ連担当特別補佐官を勤め、現在のブッシュ・JR政権で、安全保障担当特別補佐官という重責を担っている。 (p.84)
 テキザン・ブッシュ家は石油とは切っても切れない関係なのが、この記述からも良く分かります。
 それはそれとして、現在の北朝鮮問題で、背後から影響を及ぼすロシアのことを考えると、幸いな人事だったのでしょうか。ブッシュ政権中に、北朝鮮問題が片付いて欲しいものです。
 著者は、石油に絡んで世界中を飛び回ってきた方のようです。これだけの情報を持っているのであれば、落合信彦のようなスリリングな実話風の小説を書いてもよさそうなのに・・・などと、考えてしまいました。


【「日の丸原油」の原風景】
 石坂周造、石坂泰三のお2人が関与します。後者は、戦後の経済界で欠かすことのできない良く知られた方です。名字は同じでも2人の間に姻戚関係はなく、活躍した時代も半世紀の隔たりがあるが、日本の石油の原風景を彩る重要な人物である。 (p.126)
 ということで、興味深い内容が書かれています。明治維新直後からの日本の石油開発に関して書かれた内容を、この本ではじめて読みました。山岡鉄舟なども絡んでいます。


【砂漠の民、ベドウィンの生活文化】
 サウジアラビア政府は、砂漠の民・ベドウィンの定住化を促進するために、アメリカの会社が設計した個室の多い住宅を用意したところ、1年足らずで、テレビ、エアコン、発電機を持ち出して、砂漠に返ってしまったそうです。家族全員が1つのテントで暮らしてきたベドウィンに、個室は耐えられない生活形態だったようです。(p.248)
 日本も数十年前までの大家族時代には、個室などなかった筈です。個室は親権の弱体化、ひいては社会秩序の荒廃を招くように思われます。核家族で、しかも個室をもつ子ども達は、間違いなく社会的な人間として虚弱になってしまうでしょう。近頃のニュースを賑わしている「いじめと自殺」の根本はここに在るのではないかと思えてきました。

 

<了>