■□■ 技術立国日本はいつから? ■□■
 「日本人は勤勉で職人気質なので、昔から日本の製品技術は優れていた」 と考えるのは明かに誤りです。経済成長・初期の日本製品には、粗悪品がかなりあった様です。職人気質の日本人とは言え、化学・工業技術の初期段階では、やはり学習段階にあったのでしょう。それでも国際的な価格優位(円安&人件費安)で輸出できていたのです。生産技術という視点で見ても、経済成長・初期の頃は、公害問題が新聞紙面から消えることがありませんでした。
 技術立国・日本といわれるようになるまでには、それ相応の過程があり、幾多の厳しい試練を経ながら、それらを克服しつつ進化してきたというのが実状です。技術は常に日進月歩ですから、日本が技術立国になったと判断できる時期を特定することはできません。しかし日本が債務国から債権国に転じた1970年頃を、その時期と考えて良いと思います。
 工業技術以外の、手作業で行われる縫製製品に関しては、日本人の手先の器用さが、最初から活きていました。一例をあげるなら、「リカちゃん人形」 とその精緻なデザインの小さな洋服は、60年代に、日本で作られアメリカに輸出されていたのだそうです。

□ ピンチ(オイルショックと円高) をバネに □
 実用技術の経験が蓄積されて、世界中に品質的にも優れた日本製品が出まわるようになった頃、オイルショック(1973)が起こり原油価格が暴騰しました。ほぼ100%輸入原油に依存していて逃げ場のなかった日本企業は、省資源化を目的とした新たな技術開発に努め、生産技術や製品品質をより一層高めました。世界の中で、オイルショックから一番先に立ち直ってプラス成長に転じたのは日本です。逆に一番先に債務不履行(支払い不能)となったのは北朝鮮でした。
 さらに、日本経済が徐々に強くなるにつれて、極端な円高が進み、日本の輸出企業は大きなダメージを受けました。しかし、この時も、技術者達は、省力化、効率化に努めて工場設備を刷新し、製品品質はさらに高まったのです。ピンチをバネに、技術をさらに飛躍させた日本人の技術者達は、本当に賞賛に値すると思います。

□ アメリカ的経営の失敗が追風 □
 アメリカの産業界は、1980年代から会社自体を売買の対象にしてしまう TOB (株式買収) などの投機的手法に撹乱されるようになりました。様々な産業技術を保持していた会社がこのターゲットとなったがために、国を挙げて技術力を損なうという愚かしいことをしていたのです。
 このような状況から、日本に流出してきたアメリカの技術もありました。アメリカが相対的に沈下することで、日本が一層技術的優位に立つことになったのですが、アメリカ的経営によるアメリカの失敗が、日本にとっては意外な追風だったわけです。

□ 発明と実用化 □
 「日本人は、自分では何も発明できず、物まねばかりしている」 と言う人々がいます。 VTRはアメリカで発明されましたが、大き過ぎ、高額過ぎて一般市場には出回りませんでした。日本が低価格、高品質で小型のVTRを作ったので世界中に売れるようになったのです。日本のVTRは、アメリカのそれと原理は同じでも、作り方は全く違う製品になっていました。
 世界中に広まる製品になるか否かの基礎条件は 『 実用に耐え得る品質 および 価格 』 です。世界中で日本製品が優れていると評価されているということは、とりもなおさず日本の実用化技術が世界一優れているということです。実用化する技術は、単なる物まねだけで出きるものではありません。

□ ロボット先進国・日本 □
 NC工作機械とは、数値(コンピュータ)制御による工作機械のことですが、これこそ最初にできた産業用ロボットです。日本では、熟練技術者達が手作業によって行っていた作業を、コンピュータ制御ロボットにおきかえる技術を、世界に先駆けて研究し開発していました。欧米では労働組合の力が強く 「失業を招く」 という理由で、産業のロボット化は、甚だしく日本に遅れをとりました。
 日本人のロボット技術導入への親和性ということについて記述しておきます。日本では高度経済成長が始まった1960年代から、「鉄腕アトム」や「鉄人28号」 などのロボット・アニメがテレビで放映されていました。今日の「ドラえもん」に至るまで、ロボット・アニメが途絶えたことはありません。工場の作業員が個々の産業用ロボットに人間の愛称を付けて呼んでいるのも、ロボット・ペットを愛好する日本人が多いのも、これらの影響でしょう 。日本人は 「ロボットは人間の友達」 というような親しみの感覚を持っています。ところが欧米では 「フランケンシュタイン」 のイメージでしょうか、一般的に 「ロボットは人間の敵」 と感じてしまうのだそうです。

□ 高品質製品を支える日本の電力供給の技術品質 □
 日常生活や産業に必要不可欠なものに電力があります。日本人にとっては電圧が変動しない安定した電力供給は、水や空気のように当たり前のものですが、アメリカではパソコンを故障させてしまうような、不安定な電力供給状態の地域が今でも、あちらこちらにあるのだそうです。言うまでもなく、精密産業やハイテク産業にとって、電力の不安定供給は製品の品質を損なう致命傷になります。

 

<了>