日本代表とキリン杯で対戦するホンジュラス代表の実態と現状。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

日本代表とキリン杯で対戦するホンジュラス代表の実態と現状。


 日本代表とホンジュラス代表が11月にキリン杯で対戦する事が、正式に決まりました(場所は豊田スタジアム)。

 僕はもう3ヶ月くらい前にホンジュラスサッカー協会会長から「11月に日本と試合するぞ」という話は聞いていたし、こっちのメディアに対しても協会から発表されていたので、その事を自身の【ツイッター】や【フェイスブック】でもずっと書き続けてきましたが、肝心の日本でなかなか正式発表されないので「本当にやるのか?またいつもみたいに発表した後に突然中止(←ホンジュラスではよくある)になるんじゃ…」と心配していましたが…昨日、やっと日本でも正式発表された模様。

 愛する「母国」日本と、愛する「第2の故郷」であり、現在、自身がU-20代表GKコーチとして働くホンジュラスの試合。本来なら、対戦が「楽しみ」…と言いたいところなのですが、僕の心境は非常に複雑…。正直、「楽しみ」という気持ちは全くなく、「不安」しかありません。


 なぜか?


 実は、現在のホンジュラス…信じられないほどに低迷し、「近年最弱」のレッテルを貼られるほど壊滅的な状態に陥っているのです…。

 ブラジルW杯後にコスタリカ人のメドフォード(元サプリサの監督で第1回クラブW杯で世界3位)が新監督に就任し、経験はないがフレッシュな選手たちとコーチ陣で新たなスタートを切ったホンジュラスですが、【その時のブログ】で書いた懸念が現実のものとなってしまいました…。

 メドフォード新監督が就任して最初の公式戦となった中米杯(現在も行われている)にて、これまでのホンジュラスなら「勝って当然」の相手であるエルサルバドルとグアテマラを相手に、まさかの1ゴールも奪えず完封負けで2連敗…(エルサルバドルに負けたのは、何と「11年ぶり」。グアテマラに負けたのは何年ぶりかは分かりませんが、少なくとも僕は負けたのを初めて見た)。しかも、予選リーグ3試合を戦って奪ったゴールが格下ベリーズ戦の「オウンゴール」2発のみ…。自ら奪ったゴールは何とゼロ。国内での批判は頂点に達し、新監督就任3試合目で早くもメディアの間では「監督解任論」が噴出するという非常事態です。

 もちろん、エルサルバドルもグアテマラも決して明らかな格下という訳ではなく、近年は力を付けていますし、ずっと何年もこの2ヶ国には負けていなかったとは言え、僅差の試合が多かったのも事実(分かり易くアジアで例えると、ニュアンス的には、日本VS中国、もしくは日本VSタイの力関係に似ているかな?苦戦はするけど、最終的には地力の差で勝つ…といった感じです)。

 また、メドフォード監督が言うように「今回のホンジュラスは僅か3度の合宿、11日間の練習だけで大会に臨んだ。対するグアテマラは8ヶ月間も準備して臨んだ」というのも確かにあったとは思います。しかも、ホンジュラスはブラジルW杯にスタメン出場した選手はただの1人も招集せず(サブだった選手は4人召集)、19歳で我々U-20代表の選手が選出されるなど、多くの選手が「代表初選出」という、若くて新しいチーム(この点ではアギーレ率いる新生日本代表と似ている)。対照的にコスタリカはブラジルW杯でブレイクしたジョエル・キャンベルを今大会に召集するなど、他国が本気のメンバーで臨んできたのに対し、ホンジュラスはこれまで代表を支えてきたヨーロッパでプレーするウィルソン・パラシオスやマイノル・フィゲロアなどの主軸を1人も招集していません。メンバー的には、実質1.5軍以下…。

 …とは言え、です。これまでのホンジュラスであれば、例えどんなに準備期間が短かろうと、例えどんなメンバーで臨もうと、エルサルバドルとグアテマラに負ける事だけはありませんでした。特に、ホンジュラスの持ち味である「高い身体能力」や「テクニック」などの「個」の能力では、この2ヶ国を常に圧倒してきました。内容が悪くても、個の能力で強引に捻じ伏せて勝った試合も多かった。

 ところが…。今回の中米杯では、確かに若くて経験がない代表初選出の選手が多い国内組を中心としたメンバー構成だったとは言え、本来、ホンジュラスの持ち味である「個」の能力でさえ、エルサルバドルとグアテマラを相手に「差」を見せる事ができませんでした。それどころか、試合内容でも完全に圧倒されていました。「運」が悪くて負けたのではなく、「実力」で負けた…完璧に「力負け」です。内容で相手を上回りながらも決定力不足で負けた…というのなら、まだポジティブに捉えられますが、本来なら「勝って当然」の相手に内容でも圧倒されて連敗を喫した光景は、ショッキング以外の何物でもありませんでした。確かに相手も成長している…。が、それ以上に、ホンジュラスの力が落ちている…。ここまで酷いホンジュラスを、僕は未だかつて見た事がありません。


 ホンジュラスを愛し、ホンジュラスサッカーの可能性を信じ、ホンジュラスでGKコーチとして生きる者として「母国である日本と対戦するからには、1人でも多くの日本人の皆さんにホンジュラスサッカーの素晴らしさをぜひとも伝えたい」という強い気持ちが僕の中にはあります。実際、2002年に対戦した時には「3-3」、2005年に対戦した時には「4-5」と、他の試合では滅多に見られないほど両チームに大量のゴールが生まれ、随所に「個」の能力が高くて奇想天外な「ホンジュラスらしさ」が出た印象的な試合となり、少なからず「ホンジュラスサッカーの素晴らしさ」が日本の皆さんに伝わりました。また2012年のロンドン五輪で対戦した際も、非常に拮抗した好ゲームとなりました(結果は「0-0」)。※詳しくは→【次は決勝で会おう!


 しかし、今のホンジュラスの「近年最弱」とも言える壊滅的状態では…。「キリン杯で日本の皆さんの前で醜態を晒す事になるのではないか…?」と不安で仕方ありません。

 もちろん、勝負事は何が起こるか分からない。やってみなければ分からない面はあります。事実、2002年と2005年にキリン杯で日本と対戦した際のホンジュラスは共にダビド・スアソなどヨーロッパでプレーする選手は1人も招集せず、ほぼ全員国内組というメンバー構成で練習もほとんどしないまま試合に臨みながら、日本と互角以上の戦いを演じました。特に2005年の対戦では、日本が中田英寿選手、中村俊輔選手などヨーロッパ組を6人もスタメン起用した最強メンバーながら、2-0、3-1、4-2と3度に渡ってホンジュラスが2点リード。後半に時差ボケなどの疲れが出て失速して逆転負けを喫しましたが、ホンジュラスが勝ってもおかしくない試合でした。


 今回のキリン杯での対戦が決まり、日本代表のアギーレ監督がホンジュラスに関してこうコメントしています。

 「ホンジュラスは歴代のコロンビア人監督が長年与えた戦術的な規律があり、組織的に戦うチーム。ヨーロッパ各国のリーグ、そしてブラジルW杯で経験を積んだ屈強な選手たちが揃っているので、拮抗した試合になる事が予想される」

 アギーレはホンジュラスと同じ北中米カリブ海地区のメキシコの監督で、ホンジュラスの事を知り尽くしています。ホンジュラスはW杯予選やゴールド杯でメキシコには何度も勝っており、昨年のブラジルW杯最終予選では、メキシコのホーム「聖地」アステカスタジアムで「史上2ヶ国目」の勝利を挙げるなど、近年、メキシコを最も苦しめてきたチームの1つ。アギーレのコメントからも、そんなホンジュラスに対する「敬意」が伝わってきます。

 だからこそ、絶対に良い試合をして欲しい。醜態を晒して、アギーレをガッカリさせないで欲しい。アギーレ率いるメキシコ代表には、過去、痛い目にも遭ってきました。ここでアギーレにリベンジして欲しい…。

 現在のホンジュラスは、アギーレがコメントしている「ホンジュラス像」とは180度異なるチームになっていますが、わざわざ遠い異国の地まで行って試合をするからには、そして多くの観客、TV視聴者の前で試合をするからには「意地」と「誇り」を見せて欲しい。

 
 今の僕は「U-20ホンジュラス代表GKコーチ」であり、フル代表の強化には直接には関われませんが、U-20代表のGKを育てる事が、間接的に将来のフル代表の強化に繋がると信じてやみません。

 低迷するフル代表とは対照的に、U-20代表には才能溢れるタレントがたくさんいます(10代ながらホンジュラスの1部リーグでスタメンを張っている選手が複数いる。どんな国であれ、その国のトップリーグで10代でスタメン出場できる、さらにそういう選手が複数いるなんて、凄い事です)。


 U-20代表で全力を注いで選手を成長させ、今のU-20代表選手がフル代表の中心を担う近い将来、必ずホンジュラスを世界の強豪に押し上げてみせる


 …そういう気持ちで燃えています。


 「今」自分にできる事を、ただただ無心で全力でやる。それ以外に、道を切り拓く術はありません。

 親善試合ではなく、W杯や五輪の真剣勝負の舞台で日本を倒す…その時、その場に自分が居てホンジュラスの勝利に貢献できるよう、これからも僕は「今」自分にできる事をただただ無心で全力でやる日々を積み重ねていきます。




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