どちらのGKを使うべきか?第13節。VSオリンピア。アウェー。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

どちらのGKを使うべきか?第13節。VSオリンピア。アウェー。



ホンジュラスの首都テグシガルパの写真じゃ
の続きです。



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSオリンピア!2013年10月19日(土)①



 「ホンジュラス最強」チームであるオリンピアとのアウェー戦を戦うために、ホンジュラスの首都テグシガルパに上陸しました。

 前々々回のブログでテグシガルパの写真をたくさん掲載した際「綺麗な街並みですね!」といったコメントを各方面から頂きました。ありがとうございます。が…パッと見は綺麗なこの街も、実はメチャクチャ治安が悪くて危険…。「世界一危険な都市」と言われるホンジュラスのサン・ペドロ・スーラ(人口10万人あたりの殺人発生率が「世界一」。日本の400倍の殺人発生率)と双璧をなす危険な都市であると、ホンジュラスでは有名。僕も「写真なんか、とてもじゃないけど撮れない。カメラを見られたら強盗に襲われる」と怖かったのですが、この場所に詳しいチームメイトが「ここは治安が比較的良いので写真を撮っても大丈夫だ」と言うので恐る恐る写真を撮りました。ちなみに、ホンジュラス人と中国人の「大丈夫だ」ほど、当てにならないものはありません(汗)。それで何度、ホンジュラスと中国で大丈夫じゃない目に遭った事か…。

 またこのテグシガルパには、構造的に「世界で2番目に危険な空港」として有名な「トンコンティン空港」もあります。治安が悪い上に、空港まで危険とは…。皆さん、ホンジュラスにはなるべく来ないで下さい(汗)。


※ホンジュラスサッカー界の「聖地」の1つ、「エスタディオ・ナシオナル」に上陸。ここで試合をするのは、優勝を争った昨季のあの【決勝・第2戦。VSオリンピア】以来です。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSオリンピア!2013年10月19日(土)②


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSオリンピア!2013年10月19日(土)③


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSオリンピア!2013年10月19日(土)④




 「次のスタメンGKは、サンティ二とマリオ、どちらが良い?」



 試合の前々日。監督からこう聞かれました。監督からこの質問を受けたのは久しぶり…。なぜなら、この試合まではサンティ二が不動の地位を確立し、「6試合連続スタメン出場」を果たしていたからです。

 しかし、サンティ二は前節のデポルテス・サビオ戦…まさかの【致命的ミス】。元々、サンティ二の事は好きではない監督…(それでも僕がサンティ二を指名した事と、実際にサンティ二だと勝てるから、これまでは仕方なく起用していた)。今回のオリンピア戦はサンティ二をスタメンから外し、「マリオ」を起用したい意向をもっている事は、言葉では言わずとも雰囲気から伝わってきました(そもそもGKを変えたくなかったら「どちらが良い?」とは聞いてこない)。


 一体、どちらのGKを使えば良いのか…?大いに迷いました。


 僕はサンティ二の才能を高く評価しこれまでスタメンに指名し続けてきましたが、プラテンセ戦で活躍して「ベスト・イレブン」に選ばれてからは、勘違いして言う事を聞かなくなり、練習もちゃんとやらなくなって、パフォーマンスは下降の一途を辿っていました。そんな中で起きた、前節の「致命的ミス」…。さすがにこのミスで反省したサンティ二は再び良く言う事を聞くようにはなりましたが、「試合でミスして学ぶ事もできるが、試合でミスして失った勝ち点は一生、返ってこないし、そのミスでチームの運命も変われば、お前の人生も変わってしまう。練習中からしっかりと言う事を聞いていれば、あのミスは起きなかった。これからは練習で学んで、試合でのミスを事前に防がねばならない」と苦言を呈しました。僕の中でサンティ二に対する「信頼」は、確実に揺らいでいました。

 片や、マリオ…。ここ2ヶ月以上、試合出場からは遠ざかっていますが、その間も決して腐る事なく真面目にコツコツと練習に取り組んで課題を1つ1つ克服…。2ヶ月前とは比べ物にならないほど成長を遂げ、心身ともに最高の状態にありました。


 では、マリオを起用すべきなのか…?


 それでも僕が「マリオ起用」に踏み切れない理由がありました。それが下に記載する、これまでの試合データです。


☆サンティ二:スタメン出場7試合。総失点3勝2敗2分。獲得勝ち点11

☆マリオ   :スタメン出場3試合。総失点0勝3敗。獲得勝ち点


 確かにマリオはアウェーのレアル・ソシエダ戦で、サンティ二が負傷した後に途中出場して無失点勝利に貢献しましたが、こと「スタメン出場」した試合に関しては「3戦全敗」…。全く、勝てていないのです。マリオはこの2ヶ月間で本当に成長したし、おそらく今のマリオならもう充分に試合で活躍できるのでしょうが、僕の中ではまだ「マリオが出場して勝てる」イメージが100%沸かない…確信がもてない状況でした。

 対する、サンティ二。上のデータを見ても分かるように、チームの全勝ち点「14」の内「11」をスタメン出場して獲得しているこの数字は、パリーヤス・オネの3人のGKの中では圧倒的だし、「1試合あたりの失点数」でもNo.1。全GK中、唯一「勝ち越している」GKでもあります。それに、前節に「致命的ミス」をしたとは言え、その試合も「1-1」で引き分けて負けていない。これが他のGKなら、あんなミスをしたら普通は負けます。しかしこのサンティ二は、他のGKにはない「運」をもっているのです。その「運」も徐々に陰りが見えてきているのは事実ですが、ここ2試合を「1勝1分」…。決して状態は良くなくとも、それでも「負けなし」できている状況であり、僕の中ではやはり「最も勝ち点を計算できるGK」…。このタイミングで「代える」判断はできませんでした。


 僕はこのオリンピア戦でも、引き続き「サンティ二」をスタメンに指名する事を決めました。


 監督も、本来ならマリオを起用したい意向をもっていながら、「GKコーチ」である僕の言う事を信頼し、「サンティ二をスタメン起用」する事を決断しました。

 これで「サンティ二起用」が外れて負けるような事があれば、またしても僕の「GKコーチ」としての信用が崩れてしまう…。僕の事を信頼して、自分の意とは反する「サンティ二起用」を決断してくれた監督のためにも…。絶対にこの試合は負けられません


 GKコーチである自分にとっても、チームにとっても、サンティ二にとっても、非常に重要な一戦。



 果たして、結果は…?




※<前半>黄色がパリーヤス・オネです。






※<後半>







 パリーヤス・オネ、「3-4」でオリンピアに惜敗…。


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -オリンピア4-3パリーヤス



 「サンティ二起用」が完全に外れました。1失点目は動画を見ても分かるように、サンティ二がクロスに飛び出しながらボールに触れず、ヘディングで叩き込まれたもの。確かにDF2人居ながら1人のFW(しかも、
昨季までスペインのバレンシアでプレーした最も危険な選手アントニー・ロサーノ)に全くマークに付かずにフリーにしてしまったのも問題がありましたが、GKサンティ二のプレーも言い訳のしようがない明らかなミス…。このクロスへの対応に関しては【致命的ミス。…】でも書いたように「クロスに対しては触れないなら出ない。出るなら100%必ず触る事」と口を酸っぱくして言い続けてきて、またその練習も何度となくやってきたのに、またしても同じミスを繰り返してしまった…。ミス以外は良いプレーもあったし、失点は決してGKだけの責任とは言えませんが、にしても「4失点」は多過ぎる。


 この試合で、僕の中のサンティ二に対する信頼が、完全に崩壊しました。


 それでも監督は試合後、決してサンティ二の事も、サンティ二を指名したGKコーチである僕の事も、責めなかった。本音では「マリオを起用」したかった監督。普通なら僕の事を責めたいものですが、そこは「それでも起用したのは監督である自分。部下の責任ではない」というスタンスを無言で貫きました。だからこそ、こういう監督に勝って恩返しができなかった事が、本当に悔しかったし、情けなかったし、申し訳なかった…。

 今回チームは、考えられないほど劣悪な環境の中で試合に臨みました。首都までの6時間を超えるバス移動では、利用したバスが狭くてボロくて椅子が固いポンコツバス(【前々回のブログ】に写真が載っています)で移動だけで疲労困憊…。こんなバスで移動するチームは、いくら貧しいホンジュラスと言えど「プリメラ(1部リーグ)」では我々パリーヤス・オネくらい…。古巣のレアル・ソシエダとのアウェー戦で向こうの会長にこのバスを見られた時は「このバスはさすがにありえないだろう!?プロとして恥ずかしいぞ、こんなバスに乗って移動なんて」と馬鹿にされたほど…。

 しかもこのポンコツバスで試合前日の夜22時に首都に着いてから夕食をとったのですが、何とその食事が現地のファーストフード店…(ケンタッキーのようなもの)。夜遅くから、しかもこんな不健康なものを試合前日に食べさせるチームなんて…ホンジュラス広しと言えども、我々以外にありえません。

 極めつけは試合当日。チーム関係者が朝食と昼食を予約していなかったため、当日になっても何時から食事が食べれるのか…そもそも食事があるのかさえも、分からない。これには選手もマジギレ。さらには、チームがホテル代をケチりたかったがために、試合は19時からなのにホテルを12時までにチェックアウトせねばならず、それから試合出発までの5時間以上…選手は部屋で休む事ができずロビーで待機…という考えられない状況に陥りました。いくら何でも、舐め過ぎじゃろう…!?これで「ホンジュラス最強チーム」であるオリンピアにアウェーで勝てだなんて…ふざけるにもほどがある。監督はこのホンジュラス3部リーグでもありえないようなオーガナイズのあまりの酷さに大激怒し、チームの雰囲気もコンディションも精神状態も全てが最悪…。とても試合を戦えるような状況ではありませんでした。

 …にも関わらず、選手たちはピッチの上で本当に良く戦った。どんなにオリンピアに突き放されようとも決して最後まで諦めず、「最強王者」からアウェーで3ゴールを奪取。オリンピアが同じ首都のチーム・モタグア以外のチーム相手にホーム・テグシガルパで3失点を喫したのは、何と「10年ぶり」。この10年間、誰も成し遂げられなかった事を、我々は成し遂げた。その魂のプレーは、多くの人々を感動させました。だからこそ…勝ちたかった。せめて引き分けたかった。その敗因に「GKのミス」が含まれていた事…本当に、無念でなりません…。


【第13節を終えてのホンジュラスリーグ順位表】※パリーヤス・オネ、最下位と「勝ち点1差」のブービーに転落…。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -第13節ホンジュラスリーグ順位表



 どうも波に乗り切れないチーム…。勝ち試合の後に必ず勝てず、苦しいシーズンが続いています。しかも苦しくしているのが、自らの「慢心」「過信」「油断」「プロ意識の欠如」「オーガナイズの酷さ」という、自爆っぷり…。こんなにもったいなく、歯がゆい事はありません。「崖っぷち」の状況は今後も続いていきます…。


 次なる第14節の相手は…古巣の「レアル・ソシエダ」。


 今節で「3位」に後退しましたが、前節まではバリバリの「首位」。ホンジュラスで今、「一番強い」チームと言っても過言ではない…。前回対戦時は、「負ければクビ」という状況ながらアウェーで「奇跡の勝利」(レアル・ソシエダがホームで敗れたのは、今季この1試合のみ)をしましたが、今回は当時、代表のW杯予選に招集され出場しなかった昨季の「得点王」にして「ホンジュラスリーグNo.1ストライカー」の1人…ロニー・マルティネスが出場してきます。いくら今回は我々のホームとは言え、現在のチーム状況を見ても、どう考えても分が悪い…。



 「魂の古巣戦」、第2ラウンド。…も、勝つのは至難の業。


 果たして、どうなる…?


 そして、「スタメンGK」の行方は…?



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSオリンピア!2013年10月19日(土)⑤




つづく



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