ホンジュラスで最も難しいアウェー戦。第3節。VSデポルテス・サビオ。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

ホンジュラスで最も難しいアウェー戦。第3節。VSデポルテス・サビオ。



試練。第2節。VSレアル・エスパーニャ。アウェーの続きです。



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSサビオ。8月18日(日)①



 これが経験のないチームというものなのか…。

 今季、クラブ創設以来「初」の1部リーグ昇格を果たした「パリーヤス・オネ」。大半の選手はもちろん、コーチングスタッフ、チーム関係者、そしてサポーターもみんな「1部リーグ(プリメラ・ディビシオン)」の経験が全くありません(監督や他のコーチは「選手」としては1部リーグの経験があるものの、「コーチ」としては1部リーグでの経験がない)。

 だからなのか…。たった1試合負けただけで、ドタバタする。確かに前節はレアル・エスパーニャに「1-4」と大敗しましたが、相手は「ホンジュラス4大ビッグクラブ」の1つであり優勝候補。しかも「アウェー」での試合。セットプレーから失点を重ねましたが、試合内容自体は決して悪くはなく、監督の標榜するサッカーをしっかりとピッチで体現できていました。準優勝を成し遂げたレアル・ソシエダでも、昨季、アウェーではこのレアル・エスパーニャに敗れています(しかしその後にホームでは勝利し借りを倍返しにしました)。僕はその「経験」があったので「今回はアウェーで負けたけどホームで借りを返せば良いだけだ」と開き直り、敗北にも冷静でした。それに、地獄の「開幕から3試合連続アウェー戦」というあまりに不利な日程の中で、アウェー2試合で「勝ち点3」を取れている事は、1部リーグ「初心者」の我々にとってはむしろ上出来な結果と言えます。

 悲観する必要は全くない。ところがサポーターは「選手ヘボいから代えろ!」「このチームは駄目だ!」と大騒ぎ…。選手もたった1試合負けただけで、もう全てが終わってしまったかのように下を向き、完全に意気消沈してしまいました。特にレアル・エスパーニャ戦で4失点を喫し批判の嵐にさらされた正GKロニー・ガルシアの落ち込み具合は激しく、いくら僕が「気にするな!失点はお前のミスではない!ロニーは自分の仕事をしっかり全うしていたんだから自信をもて!」と励ましても、メンタル面は一向に回復せず、もはや戦闘不能な状態…。この正GKロニーの練習中の不甲斐ない様子を見ていた監督は、GKコーチである僕とも話し合い今回のデポルテス・サビオ戦で「GK交代」に踏み切る事を決断しました。


 監督から聞かれます。

 「ロニーは駄目だから代える。次節のスタメンGKはマリオとサンティ二のどちらが良い?」

 それに対して僕はこう答えました。

 「サンティ二が良い。GKとしての技術、フィジカル…全てにおいてサンティ二がマリオを上回っている。マリオはまだ能力的にプリメラ(1部リーグ)では厳しい」



 しかし今回のデポルテス・サビオ戦…。監督がスタメンGKに選んだのは、僕が答えた「サンティ二」ではなく、「マリオ」でした。

 なぜ、「マリオ」なのか…?「だったら聞くな!」と言いたいところですが、僕はこの監督の事を尊敬・信頼しており、監督の決断は100%尊重します。

 実はサンティ二、監督と反りが合わず毛嫌いされており、実力がありながら試合で使われないのです。僕は、チームに合流してからのここまでの2ヶ月間、一貫して「サンティ二がNo.1GK」と主張しているのですが、上記の理由から監督はサンティ二を徹底して起用しないどころか、サブにすら入れません。サンティ二は練習も真面目にやるし、人間的にも決して悪いヤツではありません。とにかく「GKコーチ」としての目から見て、持っている能力は3人のGKの中でダントツに高い。僕はサンティ二は「ホンジュラス代表GKにもなれる逸材」とさえ考えています。…が、これが「相性」というものなのか…監督から嫌われているため、今回のデポルテス・サビオ戦も、ベンチ外となってしまいました…。

 片や、今回、監督が「スタメンGK」に選んだマリオは…。「GKコーチ」としての目から見て、マリオはキャッチングやハイボール処理など技術的にまだまだ多くの課題を抱えており、僕の中では3人のGKの中で「第3GK」。よって監督がスタメンGKにマリオを選んだ時は、「マジか!?」と正直、不安になりました。しかし、GKコーチである僕が不安を抱えていては、出場するGK本人が自信をもってプレーできないので、「送り出すからには、信頼して自信をもって送り出してあげよう」と不安を隠し、できうる最大限の準備をして試合に送り出しました。

 前節のレアル・エスパーニャ戦に「1-4」と大敗した事で、チーム幹部からは「Yoji不要論」が出るなど、まだ2試合しか終わってないのに早くも自分の立場は崖っぷちへと追い込まれました。GKとGKコーチである自分に対する批判は凄まじく、今回のデポルテス・サビオ戦に負けてしまうと、間違いなくさらに危機的な状況へと追い込まれます。本当に、ヤバイ…。


 そんな状況で今回アウェーで対戦する、デポルテス・サビオ。実はこのチーム、昨季ホーム「無敗」。対照的にアウェーではただの1勝もできなかった平凡なチームなのですが、ホームで戦う時はあの「最強オリンピア」よりも強い。実際、昨季はアウェーで「0勝」ながら、全ての勝ち点をこのホームで稼いで1部残留を果たしています(もうかれこれ8年間くらいこうやって残留しています)。デポルテス・サビオのホームスタジアムのピッチ状態も「ホンジュラス1部リーグで最悪」と言われるほどひど酷い事で有名で、今季の開幕戦では「4大ビッグクラブ」の1つであるモタグアがこのスタジアムの犠牲となり「0-1」で敗れています。とにかく、ここでの試合は「ホンジュラスで最も難しいアウェー戦」と言われており、勝つのは容易ではありません。

 GKとGKコーチである自分に対する批判の嵐…「Yoji不要論」が出る中、自分の中では正直「1部リーグではまだ厳しい」と思うGKが先発出場し、「ホンジュラスで最も難しいアウェー戦」を戦わなければならない…。逆風しかない。半端ないです。

 この試合で結果を出して「GKコーチ」としての能力を証明しないと、今後、大変な事になる…。自分の人生が懸かった極めて重要な試合…。


 果たして、どうなる…?



※黄色がパリーヤス・オネです。





 パリーヤス・オネ、「1-2」でデポルテス・サビオに惜敗…。


 これで2連敗。チームも自分も、さらに崖っぷちへと追い込まれました。

 不安視していたGKマリオは、持ち味であるキックと瞬発力を発揮し、試合を通じては良いプレーができていました。しかし試合前に心配していた「ハイボール処理」のミス(ファンブルしてしまった)からCKを相手に与え、結果、このCKのこぼれ球からミドルシュートを決められ失点…。しかもその後は、このミスのせいで「ハイボールへの飛び出し」に恐れが出てしまい全く飛び出せなくなる…という悪循環。最後は何でもない相手のフィードに飛び出せず、DFがペナ内でファールを犯してPKを与えてしまい2失点目…。2失点全てにGKのミスが間接的に絡むという、最悪の結果。GKは「戦犯」にされ、「GKコーチ」である僕の能力に対する疑問と批判はさらに拡大…。もはや自分の立場は、チーム内で完全に追い詰められました。

 GKのみならず他のポジションの選手も「試合を通じて」は良いプレーができているし、監督の戦術も決して間違ってはなく、チームとしても「試合を通じて」は良いサッカーができています。しかし、ちょっとしたところの1プレーや一瞬の判断など、僅かなところのツメの部分で小さなミスが出てしまい、それが結果的に敗北へ繋がってしまっている…。ゴールするチャンスもたくさんありながら、決められない。これが「経験」の差なのか…。


【第3節を終えてのホンジュラスリーグ順位表】

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSサビオ。8月18日(日)③



 パリーヤス・オネ、「7位」に後退…。3試合で「7失点」は全10チーム中、下から2番目…。対照的に古巣のレアル・ソシエダは、全チーム中、唯一の「開幕3連勝」と「全試合無失点」でダントツの首位。得点数は「リーグ最多」、失点数は「リーグ最少」(…てか、未だに失点してない)と、正に「最強」と言える強さを発揮しています。準優勝した昨季でも3連勝と3試合連続無失点はなかったし、今節に勝った相手のプラテンセは昨季2戦2敗して勝てなかった苦手なチーム。そのプラテンセに「2-0」完封勝利したレアル・ソシエダ。準優勝した昨季を上回る磐石の強さで勝ち点を積み重ねる古巣の快進撃は、とどまる事を知りません。一体どこまで連勝を伸ばすのか…?古巣の強さは、正直、羨ましいです…。


 次なる「第4節」。地獄の「開幕から3試合連続アウェー戦」をどうにか終えて、やっと初めて迎える「ホーム」での試合。これで2試合ぶりの勝ち点が期待できる…と言いたいところですが、よりによって初のホーム戦の相手が「前人未到のリーグ4連覇」中の最強オリンピア
…。1部リーグ「初心者」の我々に対するイジメのような厳しいリーグ日程…。

 例え相手がオリンピアとは言え、「ホーム」で戦うからには敗北は許されません。もし負けて「3連敗」を喫するなんて事があれば…今の自分の状況(批判の嵐で「Yoji不要論」がチーム幹部の間で浮上)からして、進退問題が出てくる可能性も…。

 こうして初のホーム戦にして絶対に負けられない一戦…「VS最強オリンピア」を迎えました…。


※デポルテス・サビオのホームタウンはあのマヤ文明で有名な「コパン遺跡」があるコパン。試合ではなく観光で訪れれば最高の場所です。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSサビオ。8月18日(日)②


つづく


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