「おとぎ話」の続き…。準決勝・第2戦。VSヴィクトリア。ホーム。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

「おとぎ話」の続き…。準決勝・第2戦。VSヴィクトリア。ホーム。



踏み出した「決勝」への道。準決勝・第1戦。VSヴィクトリア。アウェーの続きです。



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Semifinal VS Victoria en Tocoa①



 「Yoji。今日は朝の4時に目が覚めて、その後、眠れなかった。みんなからの期待が凄い。試合の事を考えると眠れなくなる…」


 試合前日練習の前、監督のハイロ・リオスが僕に、ボソっとこうこぼしました。

 意外でした。これまでも残留争いの天王山 」や、「準決勝進出が懸かった大一番 」など、大きなプレッシャーがかかる試合は何度もありましたが、監督ハイロがこのように「弱み」を見せた事は、ただの一度もありませんでした。

 いつ
どんな時でも、常に自信をもって堂々と振舞っていたハイロ…。不安やプレッシャーなど感じていないのかと思いきや、実はそうではなかったのです(当然と言えば当然ですが)。

 ハイロの中で、様々な感情が去来したのでしょう。準決勝の第1戦を「アウェー」で「3-0」と完勝した事により、メディアやサポーターなど、誰もが「レアル・ソシエダが決勝に進出して当然」だと思っている…。「当然」だと思われている中で、もし万が一の事があったら…大変な事になる…。しかもハイロは、ホンジュラスで10年間、合計6チームで指揮を執っていますが、準決勝進出こそ経験あれど、「決勝」に進出した事は、まだ一度もありません。その「壁」の高さを、嫌と言うほど知っています。それらのあらゆる感情が交錯し、前述の発言…本音が、思わず僕の前で出てしまったのだと思います


 もちろんハイロは「監督」として、選手たちの前では一切「弱み」見せず、いつも通り毅然とした態度でアプローチしていました。しかし、実は内心、凄く「不安」を抱えていた事を、前述の発言から、僕は初めて知る事となりました
 ハイロも不安やプレッシャーを感じる同じ人間だったのですそして、全ての責任を負う「監督」という職業がいかに大変かという事、改めて知りました

 そんな中でもハイロは、例えば試合前の食事で僕の分だけ準備されない時、「これを食べなさい」と自分の分を分けてくれるなど、選手のみならずコーチや用具係、TVや新聞の記者に至るまでピッチ内外を問わず、事細かに気を配ってくれていました。本当に1人の監督、1人の人間として凄いし、感謝の気持ちで一杯です。 「コーチとして監督ハイロを、最後までしっかり支えなければならない」 …そう決心しました。



 一方、ヴィクトリアのアルゼンチン人監督ヘクトル・バルガスは、0-3」で敗れた第1戦の後、先日のチャンピオンズリーグ・準決勝で敗退したバルサやレアル・マドリーを引き合いに出し「我々が第2戦でこの点差を逆転するのは、メッシやクリスティアーノ・ロナウドが居ても不可能だ」と、公の場で早々に白旗宣言。しかし、この発言を額面通りに受け止めるのは危険です。これは我々を油断させる作戦かもしれない…。すでに「駆け引き」は、至るところで始まっていました。



 そしてこの準決勝・第2戦は、「GKコーチ」として大きな不安を抱えたまま臨む事となりました。実は試合の2日前のフルコートの戦術練習で、正GKのサンドロ・カルカモが、ゴールキックを蹴った際古傷の右足内転の痛みを再発…。あらゆるロングキックが、全く蹴れない状態となってしまいました。GKサンドロが、このような不完全な状態で試合に臨むは、自身がチームに合流してから15試合目にして、「初めて」の事。GKがロングキック蹴れなければ、チームとしての戦い方にまで影響してきます。一体、どうなるのか…?「蓋を開けてみないと分からない」…そういう、危機的な状況となりました。



 こうして、各々が各々の想いを抱えて迎えた「運命の一戦」…準決勝・第2戦が、ついにキックオフ。




 果たして、「結果」は…?



※試合の「ハイライト動画」は→こちらです。












 2-2」の引き分け!!



 この結果、ホーム&アウェーの2試合トータル5-2でヴィクトリアに勝利し、念願の決勝進出を決めました!


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Semifinal VS Victoria en Tocoa③

 

まさかの「お辞儀」パフォーマンスまで飛び出しました!!前回ブログ にも書いた今季のホンジュラスリーグ「得点王」のFWロニー・マルティネスが、試合前に「Yojiのために、ゴールを決めたら日本の『お辞儀』パフォーマンスをやるからな」と言ってくれていたのですが、本当に試合でゴールを決めて、「お辞儀」パフォーマンスをやってくれました!!これには感激して涙が出そうになりました…。ただ、「お辞儀」パフォーマンスをやった本人たちからは「両手を合わせてお辞儀してた選手が1人だけ居たし、もっとお辞儀を練習しなくちゃいけない」と、試合後に反省の弁が出ていました(笑)。「勝っても、常に反省」…この精神で、このチームはここまで勝ち上がってきたのです次はより進化した「お辞儀」パフォーマンスが出るか!?みんな、本当にありがとう!!(ちなみに下の「Sorprendente final」とは「驚きの決勝」という意味です。それくらい、弱小チームのレアル・ソシエダの「決勝進出」は、ホンジュラス全土に大きな衝撃を与えました)

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Semifinal VS Victoria en Tocoa.2013.5.5④



※今季の得点ランキングです。準決勝も含めて「13得点」を決めている、我らがFWロニー・マルティネスが、ダントツの「得点王」!!昨季まで2部リーグでのプレー経験しかなかった無名のFWが、一躍、ホンジュラスサッカー界の主役に躍り出ました!!ぜひ、アジアに紹介したい逸材です!!(興味がある方はご連絡下さい→「cafehondurasyoji@hotmail.co.jp)

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Semifinal VS Victoria en Tocoa.2013.5.5⑧



※これが今季のリーグ戦全18試合と準決勝2試合の結果と順位の変動…「決勝進出」までの道のりです。最初のリーグ戦5試合は、自分はまだ居ませんでした(第6節から合流)。最も苦しかったのは、やはり下の「⑦~⑨」です。残留争いのライバルだったプラテンセにホーム初黒星 を喫してから、アウェーでオリンピアレアル・エスパーニャ と怒涛の連戦。しかも、レアル・エスパーニャには敗れて3試合勝ち星なし。ここを乗り越えられた事で、チームとして何かが変わり、「決勝進出」まで繋がっていきました。逆にここで沈んでいたら…おそらく降格していた事でしょう。勝負とは、本当に紙一重です。しかし、このチームはその「紙一重」を乗り越えられるだけの「力」を、もっていました。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Semifinal VS Victoria en Tocoa.2013.5.5⑦



 昨年、クラブの歴史上初めて2部リーグから1部リーグに昇格したばかりの、とある田舎町の小さなチームが…。

 昇格して初めて迎えたシーズン(前期リーグ)は「最下位」に低迷し、オフには代表クラスの主力が財政難で大量流出して、最下位の前期よりもさらに戦力ダウンし、誰もが今季(後期リーグ)の「降格候補筆頭」に挙げていた弱小チームが…。

 ホンジュラスリーグ全10チーム中、財政難で、唯一、「外国人選手」、ゼロのチームが…。

 チームの8割以上の選手が2部リーグでのプレー経験しかない、無名選手ばかりの「雑草軍団」が…。


 まさかの決勝進出という、ホンジュラスリーグ50年間の歴史上、最大のサプライズであり、最大のシンデレラ・ストーリーを巻き起こしました。



 準決勝に進出しただけでもとんでもない快挙で、まるで「おとぎ話」の世界だったのですが、何とその「おとぎ話」には、『決勝進出』という続きがあったのです…。

 
 周囲の「結果」だけしか見ていない人からすると「サプライズ」以外の何物でもないでしょうが、当事者である我々からすると、きちんとした戦術と戦略を立てて常に最高の準備をして、全ての試合に「勝算」をもって臨み、「サッカー」で相手を上回って1試合1試合、勝利と勝ち点を積み重ねてここまできたので、不思議と「驚き」はありません(少なくとも僕は)。

 また、僕の中では「とうとう決勝まで辿り着いた」という感情すら、ありません。ここまでリーグ戦と準決勝…全ての試合を「負けたら終わり」「失点したら終わり」「無失点に抑えてもGKがミスしたら終わり」という究極のプレッシャーの中で、「命懸け」で、毎試合「決勝」のつもりで戦ってきました。だから今さら「決勝」と言われても…僕は何も変わりません。今まで通り、命懸けで、できうる最高の準備をGKに行い、試合に臨むだけです。




 気になる、「決勝」の相手は…。



 やはり、あの「最強軍団」が勝ち上がってきました。



 オリンピア」(「Olimpia 」)。



 ホンジュラスリーグでダントツの「歴代最多優勝回数」を誇り、現在、リーグ「3連覇」中。今季もリーグ戦を「1位」で終えるなど、まだ誰も成し遂げた事のない前人未到の「4連覇」に向けて磐石の状態で勝ち上がってきた、正に「最強軍団」…。


※2008年~2013年までの間で、「9回」という異常なまでの「決勝進出」回数を誇るオリンピア。こが「最強」じゃなければ、一体何が「最強」なのか?…ってくらい「最強」度合いです。注目して欲しいのが、「2011-12シーズン」までの決勝のカード…。全て「4大ビッグクラブ」である、オリンピア、マラトン、レアル・エスパーニャ、モタグアに支配されています…。昨季こそヴィクトリアが決勝に進出していますが、今季はそのヴィクトリアを我々が準決勝で破って、初めて決勝に進出しました。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Semifinal VS Victoria en Tocoa.2013.5.5⑤



 過去の実績、チームの財政力、所属選手のネームバリュー…何から何まで全てが対照的で正反対なチーム同士の、「頂上決戦」。しかし、リーグ戦の「1位」と「2位」の対戦という、ある意味、実力をきちんと反映した妥当な、「頂上決戦」(これでリーグ戦の「5位」と「6位」の決勝になっていたら、「一体、あの過酷なリーグ戦は何だったのか!?」って事になるので、このカードに決まって良かったです)。



 「レアル・ソシエダVSオリンピア」



 ホンジュラスリーグには「Final(フィナル・決勝)」よりも上のステージはありません。文字通りホンジュラスサッカー界の頂点であり、最高の舞台


 「ホーム&アウェー」の2試合トータルスコアで勝敗を決める「決勝」の第1戦は、我々の「ホームトコアで、あさって日曜日…「母の日」に行われます。

 今季のリーグ戦では、オリンピアに対して「2戦2引き分け 」。勝ててもいないし、負けていませんが、「2試合トータル同点の場合は、リーグ戦の上位の勝利とする」というルールがあるため、勝利以外に、我々が優勝するはありません。

 実家の母にはいつも心配ばかりかけて何も恩返しができてないので、「母の日」にホームでオリンピアを倒し、「勝利」をプレゼントしたいと思います。



 一体、この「おとぎ話」の続きには、何が待っているのか…?


 自分の人生は、今後、どうなっていくのか…?


 もうすぐ、その「答え」が、ハッキリします。



※ヴィクトリアとの準決勝・第2戦を終えて「決勝進出」を決めた後に、チーム全員でピッチ上でお祈りをしました。僕はクリスチャンではないですが、こうしてチームの歴史的快挙の輪の中に入れ、幸せを感じました。優勝したらもっと大きな「幸せ」を感じれるんだろうなぁ…。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -Semifinal VS Victoria en Tocoa②



連絡先メールアドレス【 cafehondurasyoji@hotmail.co.jp 】