①では先日行われたボクシング世界戦における「前」王者の失態について述べたが、②でもそれを続けたい。

この日行われたWBCバンタム級というのは「黄金のバンタム級」と呼ばれるくらい軽量級の中でも歴史と伝統のあるベルトだ。

古くは辰吉丈一郎がグレク・リチャードソンからこのベルトを奪取し、1990年代の日本を象徴するボクサーが誕生したのがこのWBCバンタム級。

しかし辰吉は目の怪我で泣く泣く王座を手放す。そのベルトは同胞の薬師寺保栄の手に渡る。

そして1994年にその薬師寺と辰吉の伝説の激闘で王者がこのベルトを防衛。

その後も不死鳥のような復活を目指す辰吉が、後にこのタイトルを保持するシリモンコンをボディーで悶絶させる。

しかしタイのウィラポン・ナコンルワンプロモーションには衝撃的なKO負け。

日本ボクシング界の天才児・西岡利晃が、そのウィラポンの牙城に4度跳ね返される。

そして神戸の叩き上げボクサー・長谷川穂積がウィラポンに2連勝。長期政権を築く。

その長谷川が2010年に当時のWBO王者・メキシコ人のフェルナンド・モンティエルと事実上の王座統一戦(長谷川のKO負け)。

その後、山中慎介がこのWBCのベルトを日本に取り戻す。そして連続12度防衛という偉業を果たす。

こうしてWBCバンタム級タイトルをザッと25年間振り返るだけでこれだけの歴史があった。

しかし今回のネリの1回目のドーピング陽性と2回目の計量失格というのは、このベルトの歴史を築いてきた幾多の名王者の業績に泥を塗る愚行だった。

そして何より問題なのは、そうしたタチの悪いボクサーを認めたWBCというボクシング団体の運営能力の劣化である。

ネリは挑戦者決定戦でも体重オーバーしていた。本来ならそんな選手を自分の団体の世界戦リングに上げてはならない。

つまるところWBCバンタム級タイトルというベルトの権威を失墜させたのは、他ならぬWBCという団体自身である。

かつてイギリスの歴史家であるジョン・アクトン卿の言葉に「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」というモノがある。

この言葉はWBCというかつての権威を誇った団体にそのまま当てはまる。

よくかつての大学が権威だったのが、権威がカネになると自分の学士号をカネで売買し、低レベルな大学生が増加。

結果、大学の大衆化によってインテリだった大学生の地位が低下したが、それは大学がカネに目がくらんだからだと言われる。

今回のWBCバンタム級タイトルもかつては権威だった。

しかしここ25年間の暫定王座の乱立による承認料稼ぎや前述のドーピング陽性反応、体重オーバーなど、既にWBCなどの統轄団体は運営能力が自浄できていない。

こうなるとそんなWBCと縁の深い日本のボクシング界もお隣韓国のそれのようにファンにソッポを向かれ、ボロボロになる可能性もある。

筆者のことだから何だかんだでボクシング観戦を続けるだろう。

今回の世界戦はいわばボクシング界の「終わりの始まり」のような試合だった。

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山中慎介(赤いガウン)

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