①ではタイのプロボクシングの勢力図が国内のプロモーター(試合の主催者)によって塗り替えられて、それまであったタイ王者というタイトルの権威が失墜した、という話をした。

②では、そんな落ちぶれたタイトルに新たな価値を見出した男について紹介したい。

タイの首都バンコクのチャイナタウンの一角にチュワタナ・ジムというボクシング&ムエタイのジムがある。

そこのジムの経営を担うアンモー会長というのが今回の主人公だ。

タイ王者というのは新設団体によって権威が失墜したのは前述の通りだ。

しかし、それでもタイ王者というのはまだ微かな商品価値は残っていた。

タイ王者になると、東洋太平洋ランキングに名を連ねることが約束される。

ぶっちゃけタイ王者へのランキングに入ってタイトルを取ることは、影響力が失墜した分、ドサ回りが効いて有利なマッチメイクなどはいくらでも都合がつく。

タイ王者→東洋タイトル挑戦やタイ王者になってのノンタイトルの試合で日本に遠征し、白星を献上。

そして自分が負けることにより相手にランキングを与え、同時に東洋タイトルの挑戦権を与える代わりにファイトマネーで日本円を得ることができる。

前述のアンモー会長はこの権威の失墜したタイ王者の存在が日本円を稼ぐ錬金術になると見越して、配下の選手を皆タイ王者に仕立て上げた。

そして、この仕組みに気づいた後も自身のタイ王者を盛んに日本に遠征させて、ノンタイトルで白星を日本人に与え続ける。

その代わり日本円という強い外貨のファイトマネーを定期的にそして確実に稼ぐことに、アンモー会長は成功した。

まさに①の冒頭で紹介した秦の呂不韋の「奇貨(権威を失ったタイ王者の利用価値)、置くべし。」の現代版である。

ここでプロボクシングというスポーツビジネスで成功というのは何なのか?という話だ。

世界王者になりファイトマネーをがっぽり稼ぐ?

そんな手段が可能なのは五輪の金メダリストなど一握りの存在だけだ。

むしろスポーツビジネスにおいて重要なのは「カネを稼ぐこと」であり、勝敗というのは時の運という水物の要素もある。

むしろ現実に即して、価値のない存在から商品価値を見出して堅実に稼ぐという姿勢の方が、商人道としてはスジが通っている。

きらびやかに見えるプロボクシングの世界も意外と、こうした抜け目ない存在の人間の方がしぶとく生き延びていけるモノなのだ。