こうして2017年11月4日のダイナミックグローブの試合はメインの東洋ヘビー級タイトルマッチを残すのみとなった。そしてこの試合には最近、日本のコミッションが公認したマイナー団体であるWBOのアジア・パシフィック・ヘビー級王座も懸けられた。

赤コーナーの藤本京太郎は空手経験者で元K-1戦士からプロボクシングに転向した、日本では数少ないヘビー級の拳士。

対する相手のランドール・レイモントはオーストラリア(豪州)出身の白人MMA(総合格闘技)ファイター。

リングでのレフェリーチェックで、両者の体格差はほとんどない。しかしゴングが鳴ると両者の持つ拳士としてのスペックは歴然だった。

レイモントの繰り出すパンチというのはプロの拳士には見えない、お世辞にも上手いとは言えないぎこちないパンチ。いかにも「兼業」な感じだ。

よく東南アジアの選手で試合中にふざけたことをして日本のコミッションから来日禁止処分を受ける選手がいるが、この豪州人MMAファイターは、やる気はあるしふざけてはいない。声を発しながら重いパンチを振り回していく。

しかしこの程度のパンチの餌食になっていたら、京太郎は到底、世界のヘビー級なんて言ってられない。当然京太郎は余裕でかわす。

かつてブルース・リーは格闘技で「考えるな。感じるんだ」という名言を残したが、この日の京太郎は感じる前に、頭で考え過ぎて手が出ない。パンチが「1」で止まってしまう。こうしたタフネス自慢の変則ファイターには「1・2・3・4・5」とコンビネーションで連打を繰り出さないとパンチが当たらない。

停滞した展開から中盤にセコンドからの指示を聞いたのか、京太郎はそうしたパンチをコンボで豪州人の体躯にまとめ打ち。

本格派ヘビー級の日本人拳士のパンチをまともに貰った豪州人MMAファイターは身体ごとマットに叩きつけられる。

何とか立ち上がろうとするも日本人主審が試合をストップ。京太郎のKO勝ちとなり、キャリアも19戦18勝(10 KO)1敗とした。

ここで今回のブログタイトルの意味に入る。

東洋ヘビー級王座というのは一言で言うと「大味」である。ボクシングとしての技量で言えばお世辞にも高いとは言えない。

以前、筆者が敬愛するプロ野球ブロガーで巨人ファンのプロ野球死亡遊戯が、その当時の巨人軍の肉体派ストッパー・澤村拓一に対して、抑え投手としての安定感が無いながらもその恵まれたフィジカルを活かしたゴリゴリとパワーで押すピッチングを近鉄バッファローズになぞらえて「いてまえクローザー」と命名した。

そして筆者もそれと同様に、応援しているジェフ千葉のあるサッカーJ2と今は亡きプロバスケ・bjリーグを「いてまえリーグ」と呼んだ時期もあった。

bjのファイナル(ベスト4)の常連だった秋田ノーザンハピネッツも正直、バスケの技量は無いチームだった。その粗いプレーからのちに統一プロリーグになるBリーグに吸収されたら、レベルが高くて緻密なプレーをするNBL(実業団)出身チームに圧倒されて2部リーグ落ちの憂き目に遭う。

実際にハピネッツの試合を観ると簡単に5ファールになって、相手に余計なフリースローを与える荒っぽさが目立つ粗野なプレーに終始。

しかし勢いだけは本物。フィジカルで押しまくって、ゴール下の肉弾戦を制してダンクをかますプレースタイルはまさにかつての近鉄打線のような「いてまえ」と呼ぶに相応しい衝撃だった。

この日の京太郎と豪州人格闘家のボクシングマッチも、そうした澤村拓一やハピネッツに共通するオラオラ感のある「いてまえ王座」な試合と呼ぶに値する勢いと迫力だった。

東洋ヘビー級王座とは、技量だけでは世界のヘビー級とは試合の質に大きな隔たりがある大味な内容が多いのは事実。ただ言った通りその巨体から繰り出すパンチの勢いとインパクトだけはハンパないのだ。

だからボクシングの本質を極めようとすれば、いわば消化不良に見えてしまう部分も多い。ただフィニッシュの KOシーンのド迫力だけは凄いっ!

東洋ヘビー級王座の価値とは、その観る者の脳裏に強いイメージを焼き付けるKOシーンだけに集約されるタイトルマッチなのだ。

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赤いトサカ(?)が藤本京太郎。

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