筆者は今回、①で野球が好きというより野球「場」が好きという話をしたが、それに対して②では、そのプロ野球に対してのディテールへの補足説明をしたい。
プロ野球の試合前の雰囲気と似ている会場を挙げなさいと言われれば、プロスポーツではないが漫画家さんへのサイン会会場というのが、なんとなくではあるが共通するように見える。
筆者は一時期、漫画家サイン会オタクのような時期があったが、漫画家サイン会というのは読者のアーティストに対する作品への愛情がふわふわと浮いているような、暖かくてそれでいて心地よい雰囲気が熟成されている。
一方で、サイン会を主催する書店の店員やアーティストの制作に携わる出版社の関係者たちも、作品に対する愛情も持ちつつ、一方で漫画の販売という最前線でサバイバルしている、厳然とした「商売」といういい意味でピリピリした緊張感という二律背反な側面もある。
そうした、ある意味相反した空気が共存しているような空間、それがサイン会という舞台である。
筆者はそうしたサイン会という雰囲気も好きだが、プロ野球の試合前の球場で感じる雰囲気というのも、こうした空間に共通するのが多々ある。
ホーム・ビジターのプロ野球ファンがチームや選手に対して捧げるような惜しみない無償の「愛情」と、一方で同じく自分のチームをファン同様に愛しながらも、額に大粒の汗を垂らしながら、プロスポーツ興行として現金収入を獲得するための厳然たる「商売」としての要素。そして両軍ベストを尽くしながらも、勝者と敗者というコントラストが映し出される白黒ハッキリつける「勝負」という風景。
筆者が野球場で好きなのはプレーや結果もさることながら、立場は違えどチームや選手を愛する人間たちが醸し出す球場の雰囲気がたまらなく好きなのである。
もちろんJリーグにも愛情と勝負の要素が共存してない訳ではないが、筆者の肌感覚だとプロ野球における両者の割合は50:50なのに対して、Jリーグのそれは10:90で勝負に対する異常なまでのピリピリ感の方が強く、筆者が今年プロ野球観戦の比重を上げたのは、この野球場が持つ愛情と勝負が絶妙にマッチした雰囲気を出来るだけ楽しみたかったからである。
今回は筆者のプロ野球に対する奇特な価値観を説明したのだが、筆者みたいな価値観で球場に向かうファンはほとんどいないだろう。
しかし、筆者はこの雰囲気を楽しみたいために、また球場に行きたいと思ってしまう人間なのだ。そんなファンが1人くらいいても悪くないと思うが、読者の皆さんいかがでしょうか?。