①では本来ならスポーツビジネスとはジャンルは違うものの、若者のやり甲斐を搾取して駆け出しの年収が111万円という使い捨ての構造にあるアニメ業界の危機について述べてきた訳だが、若者の夢というのを搾取の口実にして使い捨てにする業界は他にもある。それはアパレル業界である。

基本的に若い女の子というのは洋服が好きである。洋服が好きであるが故に、就職先にも洋服の販売員を目指す女の子はかつては多くいた。

しかし、長時間労働にプラスして立ち仕事。その割には薄給でなおかつ将来のキャリアアップを見込める給与体系でもなく、百貨店やアパレル業界の幹部はこうした洋服の接客担当の女の子が持つやり甲斐を搾取して使い捨ての道具にしてきた。

そのためこうした業界でも離職率は高くなり、現場での接客のノウハウというのが蓄積されず、アパレル業界大手の洋服ブランドの販売網や百貨店の顧客に対するサービスの質というのが次第に地盤沈下していった。

そうした百貨店やアパレル業界の内ゲバに客も若い女性販売員も嫌気が指し、アパレル業界は次第に低迷。そしてその若くて優秀な人材の流出は続き、結果的に2017年3月の千葉三越など百貨店の閉店ラッシュなどに繋がった。

こうした背景にはZOZOタウンやメルカリといった洋服のネット通販の急速な進化・発展もあったが、①のアニメ業界でも述べたようにアパレル業界も若い販売員の待遇改善をせずに、百貨店やアパレル業界上層部の若者の搾取という傲慢な態度から来たしっぺ返しが根源にある。

そしてこうした「やり甲斐搾取」というのが、この業界の低迷の真の原因であった。要はもう若者に夢ややり甲斐を謳って搾取するという構図が破綻しかかっているのだ。むざむざ老人に騙されたい若者なんて今の時代存在しない。

翻って筆者のやってきたボクシングである。今まで見てきたアニメやアパレル同様にボクシングも、若者に夢ややり甲斐を謳って騙してきた搾取の構造が昔からあった。

ボクシング漫画「はじめの一歩」の1991年頃に掲載された話で、主人公の対戦相手が「ボクシングってハードな割には報われない。4回戦のファイトマネーは5万円だ。これじゃ誰もやる気にならない」といっていたが、プロボクシングの闇の部分が分からなかった20世紀の時代ならともかく、ネットによってボクシング界の暗部にも光が届くようになった21世紀の現在には、前述のアニメやアパレル同様にボクシングにも崩壊の足音がヒタヒタと聞こえてきている。

もともと1971〜74年のベビーブームに1学年に200万人以上いたのが、今年ハタチの1997年生まれが119万人まで下がった。そして2016年生まれは100万人を割り込んで97万6000人となっているのである。こうした分野においての人材の枯渇は確実である。

そうした中で、アニメ・アパレル・ボクシング共に「おまえの代わりはいくらでもいる」ではなく「おまえの代わりはもはやいない」という時代に若年層を取り巻く社会構造は変化した。

そんな中で過去の成功例にしがみついて、次の成功の足かせを自ら作っているアニメやアパレルそしてボクシング業界の上層部に対して、最後にニーチェの言葉で締め括りたい。

「脱皮できない蛇は死ぬ」



参考文献   週刊東洋経済 2017年4月1日号 熱狂!アニメ経済圏

誰がアパレルを殺すのか? 杉原淳一・染原睦美 2017年 日経BP社