①では日本におけるプロスポーツの施設の在り方を説明してきた訳だが、②ではこの問題に対する具体的な処方箋について提示していきたい。
東京五輪開催という足音がヒタヒタと聞こえてきてはいるが、正直スポーツビジネスにおいて重要性の高い要素というのは収益性の高い専用スタジアムを建設するのがマストである。
しかし、日本の政治家や官僚というのは過去の歴史から失敗を学ぶ姿勢が欠けていて、今のままの施設の建築だと2002年の日韓W杯の時の失策と同じ轍を踏むのは確実である。
①で述べた横浜国際陸上競技場もそうだが、日韓W杯で多額の税金をかけて建設した大分県の大銀ドームも、サッカーの試合に適さない、根が浅く広く伸びる和芝でのスタジアムにしようとして、FIFAの欧州人理事から当時のサッカー場の和芝を雑草扱いされ、根が狭く深く伸びる洋芝に変えることを命じられた。
しかし大銀ドームの地下に温熱を通すパイプがあって洋芝の根の発育を妨げる働きが生まれ、結果プロサッカーの芝とは思えない1980年代のツギハギだらけの国立競技場のような劣悪なスタジアムを200億円もかけて建設した。この借金は全部地元自治体である大分県の負担になった。
話を多目的運動競技場に戻すと日本には日本ハムファイターズと北海道コンサドーレ札幌が兼用する札幌ドームやオリックス・バッファローズの本拠地である大阪の京セラドームも兼用(多目的)スタジアムでそれぞれの競技の観戦に中途半端だし、J1・FC東京の味の素スタジアムなど、陸上トラックスペースが邪魔でサッカー観戦するには見辛くサポには不評だ。
こうしたチケットを買ってくれて収益を出す観客の試合観戦に負担をかける利益率の低いスタジアムが日本の津々浦々ある。
札幌ドームだとファールゾーンが広すぎるし、京セラドームの(コアなファンが1番集まる)外野席からだと、野球の華であるホームランのボールの軌道が施設の設備で見切れてしまう、という設計に携わった人間の低劣ぶりがよく分かるスタジアムが沢山ある。
一方で、岩手県紫波町にはオガールベースという、自治体施設にしては収益性の高い施設があるが、ここはバレーボール練習専用体育館として建設され、この体育館の床はバレーの国際試合でも使われるような専用の素材を使ったバレーボール専用の体育館だ。
この体育館はビジネスホテルや図書館なども併設した施設で、民間資本の「オガールベース株式会社」によって運営され、体育館関連ではビジネスホテルも併設し、休みの日はバレーボールの合宿に使われる一方で、平日はビジネスマンの出張などで施設の高い稼働率を叩き出し、自治体が建設した施設では稀有な黒字化に成功している。
しかし、近年、日本各地に建てられたスポーツ施設というのは設立目的のボヤけた方向性の見えない多目的運動施設というのが大半であり、そしてそのほとんどが稼働率が低く慢性的な赤字に陥っている。
先日の衆院選で再選を果たした安倍首相は、スポーツの成長産業化という口当たりのいい言葉で自己陶酔しているが、今の日本のスポーツ施設でそうしたスローガン通りの収益性の高い専用スタジアムというのはほとんど存在しない。
プロスポーツ先進国であるアメリカでも、かつて1960年代頃に野球とアメフトの兼用スタジアムを多数建設して、それぞれの観戦に中途半端になった結果、同じように収益率の低いスタジアムが全米各地に現れ、結果的に収益が確保できない→補強の予算もない→弱小チームで他の都市にチームが移転するという悲しい歴史も存在する。
そのため近年アメリカで「第5のプロスポーツ」として台頭しつつあるメジャーリーグサッカー(MLS)では、リーグに加盟するクラブにサッカー専用スタジアムを本拠地にすることを義務づけている。専用スタジアムの義務化というのは、欧米のスポーツビジネスでは常識というのが現在の流れだ。
翻って日本である。スポーツの成長産業化といってスポーツという興行で利益を生み出し、それを法人税などの税収に繋げようと政府は考えているようだが、今の状況だと99%不可能である。
この件に関しては今回はここで区切りをつけるが、専用スタジアムとプロスポーツ興行との収益における因果関係については、このブログのメインテーマの1つであるからまたいずれ発表する次第である。乞うご期待。