そうしたこうしたで今回は2017年5月20日に有明コロシアムで開催されたWBAミドル級王座決定戦をメインに据えた世界戦興行について述べたいた訳だが、④では真打である金メダリスト村田諒太が挑戦するミドル級のタイトルマッチについて言及したい。
②や③で述べた試合も世界戦であるが、今回のミドル級のそれとは意味が違う。ミドル級という世界は世界中で最も選手層の厚い階級で、世界各地からその伝統のベルトを奪いに挑戦者が跡を絶たない階級なのである。
そうした中での今回のミドル級王座決定戦(空位のタイトルを世界ランカー同士が戦って王者を決める試合)の相手はカメルーン出身でフランス国籍の黒人アッサン・エンダムだった。
かつてミドル級でWBAとWBOの暫定タイトル(自動車でいう仮免みたいなタイトルのこと)を獲得して、今回はフランスから極東の島国までチャンスを掴みにやってきた。
日本の荘厳な国歌である君が代とフランスの1789年のフランス革命の時にフランスの市民が自由・平等・博愛を求めて作られたとされる同国国歌の後にゴングが鳴った。
試合が開始されるとフランス人のパンチは黒人特有の伸びとしなりを兼ね揃えた鞭みたいなパンチで肉迫する。
しかし、序盤は様子見の村田は手数が少なく両手で体をスッポリ覆うようなガードで「見(けん)」に回る。そして時折左ジャブを省略した左右ストレートで有効打を狙う。
この時、エンダムの左ジャブは動き出しのモーションが分かりやすい、いわゆる「テレフォンパンチ」で村田としてはカウンターの対処はしやすかった。
そして、その村田の右カウンターが炸裂しエンダムはバレリーナのように一回転してからキャンバスを這う。
しかし、耐久力がない代わりに回復力も高いフランス人はカウント8で立ち上がる。
その後も村田はエンダムの右に高性能な右カウンターを再三決めて、エンダムを何度もグラつかせる。
エンダムも自分の打たれ脆さを自覚しているようで、絶対リング中央には立たず、パンチをもらってフラついてもロープを支えにダウンから逃れるシーンは、筆者が見て5回はあった。
結局、このまま試合終了のゴングがなる。有明コロシアムのファンは手数は少なかったが再三見せ場を作った村田の勝利を疑わなかった。
ところが、
公式のジャッジは2-1でエンダムの手数を支持し、会場のどよめきの中でフランス人が世界のベルトを戴冠した。
負けるならいっそ、相手のパンチをまともに顎にもらって、キャンバスを這って10カウントを聞いてのKO負けならまだ踏ん切りもつくが、村田のボクシングの何に落ち度があったのか?基準が分からない状態での初黒星には会場にいるファンや関係者に極度な消化不良の印象を与えた。
しかしその一方で、筆者にとって17歳の頃からボクシング観戦を始め、39歳になった直後でミドル級の世界タイトルマッチ観戦ができたというのは、近年の世界戦観戦にはないワクワク感が試合前からあったのも事実。
この先、筆者がボクシングとどう向き合うのかは未定だが、(試合の判定そのものには不満だったが)ミドル級のトップレベルの試合を堪能できて「ひとつの区切り」としては十分納得できたボクシング観戦だった。

