そうした前座試合の露払いでリングがあったまってきたところでお楽しみの東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチの出番トなった。

①でも述べたが青コーナーには金子ジム所属の拳士である35歳のベテラン「リングの仕事人」大竹秀典。一方で赤コーナーにはフィリピンからの刺客で12勝6KO1敗という好成績のフィリピン人ジェルベルト・ゴメラだった

日比両国の国歌斉唱のセレモニーも終わり、リング上には2人のボクサーと主審の3人だけとなり、ゴングが鳴った。

先手を仕掛けたのアウエーのフィリピーノの方だった。

ゴメラはフィリピン人ボクサーらしくブンブン振り回すタイプの「強振型」。フィリピンの振り回すパンチは低レベルの日本人ボクサーのそれとは違い、パンチの引きも甘くはなく、クイックな速さでガンガンプレッシャーを掛けるので対戦相手としては脅威だ。

しかし、イギリスでの世界挑戦失敗後、捲土重来を期し再挑戦を模索する大竹もこのクラスのボクサーに負けてしまっていたら、お話にならない。振り回すゴメラのパンチにベテランらしい丁寧なカウンターを再三ヒットさせる。

しかし、パッと見ではフィリピン人優勢に見える中で、見せ場が唐突に現れた。3Rに大竹の右ショートフックがゴメラのこめかみに当たり、フィリピン人は痛烈にマットに這いつくばる。

パンチを踏み込んだ時の被弾だったのでゴメラは立てないとも思ったが、カウント8でファイティングポーズを取った。

大竹が詰めに掛かるとゴメラは半身になって追撃をエスケープ。KO決着を阻止した。

公開採点では39-38が3者と大竹はダウン以外ポイントが取れていないことが分かり、中盤戦から大竹はより強いプレッシャーを掛けた。

そのため中盤戦以降の両者の撃ち合いはノンタイトルの試合のように、両者とも負けても失うモノがないような火の出る様な撃ち合いに終始した。

中盤戦で明確なポイントを稼ぎたい大竹がカウンターを連射すれば、ゴメラの方も短躯な身体を目一杯使って左右フックを強振する。

大竹のようなベテランはこうした振り回すフックをまともに貰うということはほとんどないのだが、しかし一瞬の油断が命取り。ゴメラのパンチも劣勢ながらも死んではなく、最後までスリリングな撃ち合いに終始した。

最終的にこのタイトルマッチは3人のジャッジの公式採点に勝敗を委ねられたが、115-112が二者と116-111が一者の判定で、決定戦を制したのはホームの日本人ボクサー・大竹秀典だった。

ゴメラの方も最後まで試合を捨てず、勇敢に撃ち合ったが、パンチの中に強弱がなく、フルスイング一辺倒だったため、ベテラン大竹としても当たればヤバいが、実はゴメラの強振は技巧派にとってディフェンスしやすいパンチだったのかもしれない。

こうして世界再挑戦を目論むベテランが負ければ引退というサバイバルマッチに生き残った。

これからの大竹のマッチメークがどうなるのかは筆者も全く分からないが、この日の勝利で長く険しい再挑戦の道を一歩進めたのは確かだ。

思い通りにいかない世界再挑戦のマッチメーク。東洋王者が何度も「前哨戦」が組まれ、我慢の日が大竹を待ち受けてる。

しかし、某バスケット漫画の「諦めたらそこで試合終了だよ」ではないが、東洋王座を防衛しながら、大竹は次のチャンスを待ち続ける。

今回のタイトルマッチの勝利は大竹にとってある意味イバラの道のスタートを意味しているのだ。

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