①では調べた文献などを活用しつつ、若手選手の移籍金制度であるトレーニングコンペンセーション(TC)を説明してきたが、正直こちらの方が肝になる。
ジェフは昨年(2016年)末に右サイドハーフの若手で井出遥也という選手がいた。
井出の場合、ジュニアユースの頃からジェフ一筋で、ジェフの未来の象徴とも呼べる選手でもあった。
が、
しかし、昨シーズンはレンタルで移籍した同じポジションの選手にレギュラーの座を取られていた時期もあり、伸び悩みも経験していた。
そうした、クラブとしても選手としても低調なシーズンだった昨年末に、J1のカンバ大阪の強化部が井出に移籍のオファーを出した。
井出にすれば、住み慣れた環境を離れるのに不安もあったろうが、J1の強豪クラブでレギュラーを取れば、脂の乗り切った時期に日本代表の招集も夢ではない。こうして井出遥也のガンバ移籍は現実のモノになった。
ここで本題に入る。J2ジェフ千葉のユース出身の井出遥也がJ1のカンバ大阪に満23歳を迎える2017年1月31日の直前にあたる同年1月1日までに移籍交渉がまとまった。これによりジェフ千葉はTCでの移籍金獲得の資格が発生する(井出の誕生日は1994年3月25日だが、もしこの誕生日が1月24日など期限の1月31日より前だったら、2017年には井出は満24歳となり、井出の保有権を持つジェフ千葉というクラブはTCという金銭的な保証制度の恩恵に預かれなかったことになる)。
ジュニアユース時代(中学生)は1年あたり100万円×3=300万円で、ユース(16歳)からTCの有効期限である21歳までの6年間でJ2クラブからJ1クラブへの移籍なら800万円×6=4800万円。300万円+4800万円=5100万円の移籍金がTC制度によって、ガンバからジェフに支払われる。
もし、この井出の移籍が1年遅かったらこの5100万円は契約期間満了の移籍で、移籍金0円になってしまう。人身売買みたいで嫌な響きだが、これがサッカービジネスの現実である。
余談だが、もし井出の移籍がJ2同士だったら16歳から21歳までの1年あたりの支払い額は400万円となり、100万×3+400万×6=2700万円に下がってしまう。
こういう言い方は何だが、ジェフが井出を売るタイミングとしては今回が最高の売り時だったのだ。
今回、よくサッカー界で言われるトレーニングコンペンセーション制度という移籍金の仕組みを説明したが、一見すると華やかに見えるスポーツビジネスの世界も、実はこうした人身売買の要素が大きいある意味ヤクザな環境だったのだ。甘い夢を見られる世界ではないのがサッカービジネスだ。
追記…2017年12月24日現在、TCで送り出すクラブが得られる最高金額は5200万円に増加した。TC制度の変化については、資料を探してまた当HPで発表したい。
参考文献 週刊サッカーダイジェスト 2014年5月13日号 2014年版 サッカーとお金の話