①ではボクシング観戦の帰り道、落書きだらけの階段を下る道すがら、半世紀以上ボクシング観戦をしているような老人(後楽園ホールの住人)の言葉が深い、という話をしたが、②では具体例を挙げていきたい。
後楽園ホールの住人からボクシングの本質というモノを気付かされたのは、2012年2月4日の日本ミドル級王座決定戦、湯場忠志(都城レオ)vsカルロス・リナレス(帝拳)の試合であった。
帝拳拳士No.1の出世頭・ホルヘの実弟にあたるミドル級ボクサー・カルロスが、既に3階級(当時)で日本タイトルを獲得していた湯場に「挑戦」するような試合。後楽園ホールのキャンバスはゴングが鳴った直後からヒートアップした。
若さに任せてプレッシャーをかけるカルロスが2Rまでは圧倒していたが、3Rに湯場の左カウンターでカルロスはマットを這った。
その後立ち上がり、攻勢をかけるカルロスにまたもや湯場の左カウンターで2度目のダウン。さすがのカルロスも今度は10カウントを聞いた。
話の本題はここからだが、湯場の強烈な左カウンターを土台になったモノは一体何だったのか?ボクシングIQの低い筆者には解らなかった。
そこで筆者の手前を階段で下っていた後楽園ホールの住人が一言。
「重量級はスタミナだな」
金田一ではないが、謎は全て解けた!と全く知らないおっさん相手に膝を打ちたくなった。
重量級で重要なのはまずスタミナ。そしてフィジカル。最後に「左を制する者が世界を制する」という格言のように左ジャブの精度。
これら3つの要素が三位一体となって本場アメリカに殴り込みをかけられるような高レベルな重量級ボクサーが完成するのだ。それに気づけたのは間違いなく、後楽園ホールの住人からの「福音」からに他ならない。
他にも後楽園ホールの住人から教わったことは沢山あるがここまでにしておく。
サッカーが国技であるお隣韓国ではKリーグ(国内リーグ)の試合を観戦している、眞露(韓国の焼酎)を片手に酔っ払ったおっさんのサッカーのぼやきがズバッと的を得ているという。
「そこでタテに楔(くさび)が入れたら、FWは切り返しては無駄だ。むしろダイレクトにはたけ。ダイレクトでシュートにいってダメなら仕方ない。しかし、切り返して相手GKに守備の時間を作らせたら絶対にダメだ」と…。
そのサッカー関係者が言うに、日本のサッカーファンはまだ観戦力は韓国ほど備わっていないと言う。一方で、日本のプロ野球の客席でビールでのたくっているおっさんにはその韓国の焼酎で気持ちよくなったおっさんのぼやきに通じるモノがある。
翻ってボクシングだ。後楽園ホールの住人はプロ野球ファンのおっさんほど絶対数では少ない。
しかし、彼らもまた自分たちの言葉に「言霊(コトダマ)」を含んでいるのである。