①ではボクシング界における連続KO勝ちの記録達成のプロセスと、その記録が懸かった試合の興行のセミファイナルについて述べた訳であるが、②では実際にその記録が懸かった試合を見ていきたい。

連続KO記録が懸かったボクサーの名前は別府優樹。全日本新人王までをオールKOで破竹の快進撃で勝ち進み、出身地から「九州のタイソン」と呼ばれていて、14戦14勝14KOと日本or東洋タイトルまで十分射程に入った期待の拳士だ。

一方の記録ストッパーを期待されてリングに送りこまれた刺客はチャールズ・ベラミー。元・米軍兵士で横田基地時代にボクシングを習い(現在は除隊)、日本・東洋タイトルも獲り、アメリカで世界ランカーとも対戦歴がある古豪である。キャリアは26勝17KO3敗1分であるが、特筆すべきはこの3敗は全て判定負け。倒されて負けた経験がない部分が記録ストップという意味でミソになる。

そうした中でゴングが鳴ったが、まず仕掛けていったのは当然、連続KO記録が懸かった別府の方である。

自慢の右ストレートや左フックをベラミーのガードの上でも御構い無しにガンガン打ちまくる。

しかしベラミーも元王者。高く懐の深いガードで自分の急所をすっぽり覆い、序盤は様子見と専守防衛で守りを固める。

そんな序盤から飛ばす別府は2R終了間際、ベラミーのテンプル(こめかみ)にパンチを決めてグラつかせるもゴングに逃げられる。別府の強打がヒットするたびにボクシングの目が肥えてる後楽園ホールの観客からどよめきが起こる。

しかし、前半の4Rを逃げ切ったベラミーが5R以降、反撃の狼煙(のろし)を上げる。

長いラウンドが未知の領域である別府に後半勝負のベラミーが、こちらも26人の拳士の夢を喰い、うち17人の拳士をキャンバスに這わせた強打で若く強打を持つ九州の拳士に襲いかかる。

しかし、別府も高校時代アマチュアボクシングで九州大会3位でボクシングのテクニックがあり、四角いリングを丸く使うフットワークと鋭い左ジャブでベラミーを牽制し、後半戦も一進一退。

最後の第7・8R辺りは連続KO記録とかを忘れて試合に没頭し、記録のことがどうでもよくなるスリリングな強豪が至近距離で飛び交う重量級らしい熱戦であった。

結局最終第8Rまで試合は終了。三人のジャッジの採点に勝敗を委ねた。この時点で別府の連続KO記録は消滅した。

採点は78-74(ベラミー)、77-76(別府)、76-76の三者三様の引き分けであった。

この試合の帰り道に、ある初老のボクシングファンが「今日の試合は別府のためにも勝ちでなくてよかった。彼のためにも、この強豪との引き分けが将来のタイトル獲得のための肥やしになる」と言っていたが、まさにこの日の試合は記録云々ではなく、別府のような若き拳士にとって将来に繋がるような価値ある引き分けに見えた。少なくとも3000円というチケット代と花金の夜を費やして観るに値する翌日の寒波到来前の熱闘であった。

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