今回のクリスマスイブ・ボクシング興行もメインイベントになった訳であるが、メインは日本ミドル級暫定タイトルマッチであった。
「暫定」という余計なモノがついているのは、正規王者の西田光(川崎新田)が9月の防衛戦の前日に階段から転倒し、脳震盪(のうしんとう)からドクターストップがかかり試合延期。この時挑戦する予定だった八王子中屋ジムの淵上誠が現日本ランキング1位で横浜光ジムの胡朋宏(えびす・ともひろ)と正規王者の回復を待つ間の暫定タイトルとして、王座を争うことになった。
しかし、淵上もこのミドル級の日本と東洋のベルト保持経験もある上に、2012年にはウクライナで最強王者G・ゴロフキンの持つWBAタイトル挑戦経験も持つ(3RKO負け)。
一方の胡も日本王者の経験もあり過去20戦(16勝4敗)の全てがKO決着というスリリングな展開が保証されたハードパンチャーだ。
そうした中で、国歌斉唱の後にゴング。積極的に仕掛けていったのは強打者・胡の方だった。
高い身体能力からフィリピン人のようにバネのある速く鋭い強打を強振し、元世界挑戦者をのけぞらせた。
一方の淵上も左構えから右ジャブ&左ストレートを丁寧に決めて、両者の持ち味が出た1Rだった。
しかし、2Rにいきなり見せ場が出る。接近してショートパンチを応酬した両者だが、胡の右フックで淵上がダウンを喫する。
並の拳士ならカウント10を聞いているような強打でも、世界のミドル級を知る拳士である淵上はパンチの急所をズラして、致命傷を逃してカウント8で冷静に立ち上がった。
ここからイケイケの展開になる胡であったが、経験値の高い淵上はこの後、老獪(ろうかい)な試合運びで逆にペースを握った。
胡の強打のヒッティングポイントを微妙にズラし、逆に自分の左ストレートと右ジャブが当たる位置に、細かくポジションチェンジをして、3R以降のポイントをかき集めた。
しかし、8Rにクライマックスが訪れた。ダウンを奪いながらも劣勢だった胡は肉を斬らせて骨を断つ覚悟で再度、接近戦を敢行。
強烈なショートレンジの打撃戦で打ち勝ったのは強打者の胡の方だった。
右のショートフックでダウンを奪った胡は立ち上がった淵上に、再度同じパンチでキャンバスにダイブさせる。
糸の切れた操り人形のような倒れ方をした淵上にレフリーはノーカウントで試合をストップ。胡は17度目の勝利もまたKOで飾り、全試合KO決着のレコードを更新した。
今回の試合はチケット代も高くついたり、前座が早く終わりすぎたりもしたが、この胡の強打を見て、それまでの鬱憤も晴れて爽快だった。
ベタな考えではあるが、やはり強打者のKO決着というのはスッキリする。またボクシング観戦をしたいというメインイベントの名勝負だった。


