辰吉寿以輝の試合が終わったあと、筆者にとって興味のある試合が2つあった。その内1つが寿以輝と同門の大阪帝拳拳士の中澤奨であった。
アマ6冠から鳴り物入りでプロデビューしたエリートは前戦で韓国からの輸入ボクサーに苦杯を喫し、練習環境を変えるために上京。帝拳ジムで練習しながら再起を図った。
そんな中澤の相手はランディ・クリス・レオン。10勝(3KO)13敗4分の東洋ランカー。ランキングには入っているものの格下のフィリピン人だった。
しかし、中澤はそんな相手を持て余す。レオンはガードが硬く、中澤のジャブやストレートをガッチリ受け止めて応戦。顎やみぞおちを上腕部で隠し、パンチをリターン。
中澤もこうした相手には1発狙いではなく、3・4・5発とコンビネーションで狙うしかないのに、頭に血が上り、冷静さを欠いて狙い過ぎて山場のないまま規定ラウンドを終了した。
判定は中澤だったが寿以輝同様にこのレベルで満足しては困る内容だった。
そして、下田昭文である。元WBA・スーパーバンタム級の世界王者である帝拳拳士で1番の素質の下田も32歳。これが最後の再起戦とあって気合いが入っていた。
相手はガドウィン・トゥビゴン。14勝(9KO)11敗2分のフィリピン・フェザー級7位で直近の試合は4連勝中だ。
しかし、下田とフィリピン国内ランカーとでは役者が違った。
フルラウンド持つのか?という圧倒的な運動量とフィジカルでトゥビゴンを追い詰める。
そして2Rで下田のサウスポーのいきなり打つ左ストレートから切り返しの右ショートフックでトゥビゴンがダウン。
元世界王者との圧倒的な実力差を見せつけられ、心を折られたフィリピン人は戦意喪失。カウント10を聞いて下田は日本タイトル前哨戦をあっさりクリアした。
下田の試合は13年前から生観戦しているが、下田のパンチを肉眼で追えたのはこの試合が初めてだった。
自分がボクシングを見る技術がついたというより、下田が衰えたのかと思うと寂しくなった。
下田の試合のあと、リングサイドに現IBF・フェザー級王者のリー・セルビーが来日していて、一緒に写真を撮った。セルビーのマネージャーもそうだが、筆者の下手くそな英語の質問にも気さくに応じてくれて、気のいいアンちゃんといった感じだった。

